3月11日午前11時20分頃、イチロウと広島駅で合流する。この度は、Gilberto’s関東組は諸事情にて不参加となり、Gilberto’s西日本支部のイチロウと私のみが「びわイチ」に出場することになっていた。
この度でイチロウにとっては3回目、私にとっては2度目の「びわイチ」出場となったせいもあるのか、事前の盛り上がりとしては今ひとつだった。「びわイチ」一か月前になってコンディション作りを始め、事前合宿まで組んだのに、二人の間ではそれでも盛り上がらず、出場キャンセルも含めて「どうするべ」と煮え切らない状態であった。“ふたりとも齢を取って若くないしねえ、必死こいてペダル回すよりも、ボチボチ漕いでた方が良いわなあ…..”など、詮もなきことをどちらともなく言っていた。
それでも大会に出ることを前提に休みを確保し、宿まで予約している訳で、大会をキャンセルしてその代案に妙案は浮かばず、やはり当初の予定通りに出るかと決めたのが大会日3日前のことだった。
午前11:50広島始発のぞみ号指定席に乗り込み出発。今回は、事前にサイクルジャージなどの着替えは事前に宅配便で送ったので、所持品はバックと輪行袋のみ。前回のようなドタバタハプニングは起こらず、順調な滑り出しだった。あれよあれよという間に、京都駅に着き、そこからは、琵琶湖線新快速14:00発長浜行に乗り換えた。京都駅に辿り着くころには、日常生活の諸々の気分からは解放されてすっかり旅モードになっていた。京都駅ホームで電車を待つ間、俄かテッチャンになって、何枚か写真を撮る。近くにひとり、高校生らしき見るからにホンマモンのテッチャンがいて、デジカメで到着する電車を撮っていた。私は田舎育ちで電車と縁がなく育ったものだから、鉄道ファンである少年に対して、その趣味を都会に住む者の特権とを思われて妙に羨ましく憧れのような心情をずっと抱いてきた。だから、目の前のテッチャン少年を素直に「良いなあ」と思える。
14;00発の琵琶湖線新快速は程なくやって来て、私たち二人は輪行バックの置き場所を確保するために先頭車両に乗り込んだ。輪行バッグの置き場所を確保して一息ついた頃、電車は京都駅を離れた。客室と運転席を挟む窓は開放されていたので、進行前方の景色が丸見えで二人とも喜んだ。前方を眺めていると、真っ直ぐに伸びた線路前方に真っ暗な長いトンネルが見えて来て、そこの闇を通り抜けると、そこは滋賀だった。京都駅から大津駅まで約10分!こんなに近かったのだねと驚いた。
大津を過ぎて、暫く行くと左手に琵琶湖が見えてきた。左手には、手前から干拓によって広げられたであろう広い農耕地、そしてその奥に湖、湖西地方の峰に雪を残した山々。右手にも広い平野とやはり雪化粧を残した山々が見えた。何度来ても眺め良い景色だった。
そんな車窓の風景に独り感心していたのだが、ふとイチロウに目を転ずると、先ほどから何度も運転席を覗き込みながらニコニコしている。私が、「どうしたの?」と目で合図すると、彼曰く「あのさ、Iさんがたまんないのwカッコ良いんだわw」と堪らなく嬉しそうに小声で返してきた。
イチロウの覗いた先を見ると、その電車の運転手の運転諸動作のことのようだった。各駅に着くと、左側運転席横の小窓を下げて後方確認、ふたたび運転席に着くと、右人差し指で信号を確認し、そして運転席右前方に掲げられた到着時刻表を人差し指で撫でるように確認し発車。走行中も各所の信号と時刻表を右人差し指を指して確認動作。ごく軽く右手を人差し指を残して握り、しかも伸ばした人差し指はピンとではなくて軽く曲がっている、そしてその人差し指での指し方も手のひらを返すように即ち人差し指の背(爪)側で指しているような恰好で、その所作は見ようによってはキザなんだけど、Iさんのプロとして美意識が感じられた。イチロウと二人で「歌舞伎役者みたいだね」と笑った。でもさ、ユーロ鉄道や米国大陸横断鉄道の運転手ではこんなにカッコ良く運転しないんじゃないの?これね、日本の職人気質に共通する美意識なんじゃないの?など、イチロウと二人で好き勝手な空想を働かせてはローカル線の旅を楽しんでいた。
やがて列車は、米原で8両編成から4両編成に切り離され、ドアも自動開閉から手動開閉(とはいっても、お客がボタンを押すだけだけど)となり、益々ローカル線チックになった。米原を離れると、左手の琵琶湖が近づいて湖畔の松並木が見え、右手前方には頂に雪化粧をした高い山(後で調べると伊吹山)が近づいてきた。
午後15;10に長浜駅に到着。明るい陽射しであったが、空気は冷たく肌寒かった。「ああここまで来ると寒いね。長浜は北国なんだな。この辺りも日本海側の気候なんだね。」とイチロウが感嘆していた。
長浜駅東に延びるメイン道路を100m程度歩いたところに、私たちが宿泊するビジネスホテルがあった。それぞれに部屋に入り旅装をほどいて、自転車を組み立てたところで、長浜の町散策に出かけた。
私は、長浜に来るのはこれで3回目であったが、その街を散策するのは初めてであった。長浜の旧市街地は碁盤の目のように区画が整理されていて、ホテルからもう一区画東に先ほどのメイン道路を往くと、その道路を南北に横切るように旧北国街道の道標が立った通りにぶつかった。その北国街道を左に曲がると、古い町家風の建物が残る通りがあった。
(つづく)
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