私たちは、6;40スタート組であったが、前の組とも重なって、スタートゲートまで長い列が出来ている。スタートゲートまでの待つ間も冷気で体が冷えてくるため、時々脚の屈伸運動をしながら下肢を温めて待った。
待つ間に次第に辺りは明るくなり、対岸湖西地方の山々が見え始め、美しい湖畔の風景にしばし見惚れる。
しばらくそのまま走行していると、ライトグリーンのウィンドブレーカーを来たオジサンが、私たちの集団を抜き始め、イチロウもすかさずそのオジサンを追いかけるようにペースアップ、しばらくしてその二人が前方に見えなくなった。
私は、そのまま自分のペースに合う集団を見つめてはゆっくりと走行、湖北地方の、このコースの中で恐らく一番景色が良いと思われる区間を楽しもうと思っていた。北に進むにつれて、植生も白樺の並木が見える箇所、白鳥の飛来している休耕田、そして眼前に迫ってくる北部の山々、国道8号を左折して進み県道336号線の北湖岸沿いを進む箇所から見るびわ湖の風景などスタートから第1エイドステーションまでの道程は見どころが多く、走っていて本当に楽しかった。
午前8;15頃に第1エイドステーション/ 道の駅あぢかまの里に到着(走行距離27.3㎞)に到着。チェックを受けて、補給食を取り、その後トイレに並んでいると、イチロウを発見。私を待っていてくれたらしいが、トイレ渋滞が想像以上にひどく随分時間を取られたと。結局、このエイドポイントで25分程度を費やし、イチロウと共に8:40に出発。
ほんのしばらく共に走行したが、岩熊トンネルに上がるちょっとした坂道でふたたびイチロウに先行してもらい、その後は夫々のペースで走行を続ける。トンネルを抜けて、左折し田畑の広がる集落を抜けると、県道357の湖岸道路に入る。この辺りは、ところどころにキャップ場がありリゾート地になっているようであった。湖岸道脇に自転車を停めて、景色を楽しむ参加者も見られ、参加者がそれぞれのペースでこのサイクリングを楽しんでいる様子が認めれられた。この湖岸道を楽しんでいると、白髪に白髭のオジサンがやって来て、そこそこのペースで走ってくれるため、この方をペースメーカーに第2エイドステーションまで走る。湖岸道が終わると、県道54号沿いの湖岸道/途中サイクリングロードを南下。左手に広い広いびわ湖、右手に湖西の山々を眺めながら、平坦な道のりを自動車の往来を気にすることなく、大変気持ちよく走る。
午前10;30頃に第2エイドステーション/ 琵琶湖子どもの国(61.6㎞)に到着。まずまずのペースと思われた。今度は、15分の休憩で出たいと、チェックを受けた後補給食を食べながら、トイレに並ぶ。イチロウとは会えず既に出発しているものと判断。トイレを済ませて、10:45頃に出発。
この先、しばらく進むと近江高島の旧街道沿いの街並を楽しんだ後、国道161号線に出る。やや自動車の往来が多く気を遣う。前回走った際には、天候が曇り風も強かったためこの区間はやや辛かった記憶があるが、この度は天候は晴れて風もほとんどなく精神的な負荷は少なかった。その後北陸本線の高架沿いを走るのだが、微妙なアップダウンがあり両脚への負担を感じた。ただ前回は大熊トンネルでの上り坂で両脚が攣ってしまいこの微妙なアップダウンで両脚が再度攣り始めて誠に難儀し、ともに走行していたイチロウ・ジロウに心配をかけたのだが、この度は体調も良く無難にペースをキープできた。所々の曲がり角で、前回の走行時に、イチロウ・ジロウが笑いながら私を待っていてくれた光景が思い出されて懐かしく感じる余裕があった。
ただし、この区間は琵琶湖大橋までは視界が高架や市街地の建物で遮られることや、そろそろ両脚に疲れを感じられる頃であり、初めての参加者には精神的に負担がかかる箇所だと思われる。ひたすら左手前方に琵琶湖大橋が見えてくることを目標にペダルを踏む。
午前11:55頃についに琵琶湖大橋のトップに到着。到着時、気温は恐らく10℃前後であったが、天気は快晴で風はほとんどなく、左右に琵琶湖を囲む青い山々が遠望出来誠に絶景。
“本当に来て良かったなあ。出てくるまでは多少のすったもんだあったけど、この景色眺めたら、日頃の諸々の苦労も報われる。命の洗濯ができました!”
もうしばらくゆっくりと眺めていたかったが、先を急がねば。イチロウもどこかで待っているだろうし、出走前に目標を立てた午後3;30分までにはゴールしたい。
琵琶湖を360℃一望したあと、再び自転車に跨り先を進む。
午後12;30頃に第3エイドポイント/ 鮎家の里(100.6㎞)に到着。自転車を自転車止めに置いた直後に、イチロウが出迎えてくれる。イチロウは、12時前にはこのエイドポイントに到達していたらしい。なんでも、第2エイドポイントを出てしばらくすると、東京からやって来たお兄さんと湖西岸沿いを抜きつ抜かれつのデットヒート(本人曰く、お互いが交互に牽引しながらw)し、南側に下ってきたらしい。もの凄いハイペースでやって来たことになる。呆気にとらわれる想いがした。私がこのエイドポイントに到達したのは彼から遅れる事40分余りになっているから、イチロウはもう出たかろ?先に行っていいよと伝えると、彼曰く「もう良いんだ。もう充分。これからの残り40㎞はマサキと一緒に走るべ」などと言っていた。
この第3エイドポイントで本格的な昼食休憩。支給されたものはカレーライスと小鮎の唐揚げ。この大会での最大の楽しみは小鮎の唐揚げで、食べてみるとちょっとした苦みと共に香ばしさが口の中に広がって誠に旨かった。それまでの走行で蓄積された疲労が一気に取れる感じがした。イチロウに少々我慢して貰って、30分ほど休息を取らせてもらう。
午後1;00に第3エイドポイントをイチロウと共に出発。湖岸沿い県道559号線を私が先行して北上する。途中振り返りながら「イチロウに先に行っていぞ」と声をかけるが、彼「いやいやまだいいべ」と笑いながら応じていた。近江八幡市長命寺町付近から左折し、県道25号に入る。ここから先は湖岸の山坂道になり、コース終盤の疲れた両脚にはさらに負担がかかる箇所。25号線に入った直後に、イチロウに合図を送ると、彼「?そうか、じゃあ行くべ」と言い残し、ペースを上げて先に行った。
この山坂道、前回は心が折れそうになったが、今回は多少のペースは落ちたものの、前方の往く同じペースのヒトを目標に走行を続けるとそれほど辛くなく通り抜けることが出来た。やはり、前回の経験がありある程度先が読めることと、2週間前の合宿で山坂道を走っていたのが良かったと思われた。
この山坂道からは、左手に琵琶湖、右手に広い田畑をみながら平坦な道路をひたすら進む。午後2時前後に第4エイドステーション/ 湖岸緑地南三ツ屋公園(124.7㎞)に到着。再びイチロウと合流。支給された近江牛コロッケを食べて、10分程度休息。ここまで来たら残り24㎞弱となり、目標にしていた午後3;30までのゴールも叶いそうであった。両脚の張りはあったが、お尻の痛みはそれほどでもなく最後まで耐えられそうだった。疲労は感じていたが、気分的には軽かった。再度イチロウに「先に行けよ」と言ったが、「いやいや、最後は一緒にゴールするべ」と言っていた。“じゃあ、引っ張れるところまで引っ張っていこう”と決めた。
午後2時10分過ぎに第4エイドステーションを出発し、ゴールに向かう。ここから長浜市の豊公園までは、全くの平坦な湖岸道路を北上する。やや走っていて飽きてしまうのだけれど、後ろにイチロウが控えていては最後のひと踏ん張りをするしかなく、本来の己の巡航ペースよりはハイピッチでペダルを漕いだ。何組かパスしていって力が付きかけた時に、イチロウに「もう先に行っていいぞ」と声をかけたが、イチロウは笑いながら「まだまだ。マサキの後ろを走っていると、スリップストリームが働いて、スゲー楽なんだ」と応じた。
彦根付近で私より早いペースの男女ペアに抜かれ、必死で追いかけるもジワジワと引きはなされた。彦根市街地を過ぎて県道25号から左折し湖岸の径に入るのだが、舗装が荒れていて自転車が軽くバウンドしなかなか前に進まず、そのペアに引き離されついて行くのを断念した。その女性の健脚振りには舌を巻くと共に何やら己の脚力のなさに情けない想いをした。
しばらくすると再び自動車道と合流し、そこでイチロウがラストスパートをかけて私を引き離した。私はそこからはウィニングラン気分で本来のペースで走る。やがて左手に豊公園の建物や林木が見えてきてた。
午後3時05分に無事にゴールゲートに到着。148㎞をトラブルなく完走。朝威勢の良い声で私たちを見送ってくれた男性が、やはり元気な声で「お疲れ様~。ゴール、おめでとう」と声を掛けてくれる。充実した達成感あり。思わず柄にもなく、手を挙げて迎えてくれた人たちに手を振って応えた。
大会本部が設置された広場に帰り、ゴールのチェックを受けて完走認定証を貰い、イチロウと合流。イチロウがにっこりと「あのさ、さっき俺たちを抜かしていった一群、まとめてぶっちぎってやってたからなw」いう。
“本当にこのオトコ、自転車に乗らせるとタフガイになっちゃって”と可笑しく思う。
前日までは、弱気な事をぬかしつつ、いざとなれば韋駄天になってしまう。「ホントに早やすぎなんだよ」と笑い返すと、イチロウやや気恥ずかし気に「いやあ、前に誰かいると、つい抜かしてしまいたくなるんだよなあw」と。
ふたりで、それぞれに記念写真を1枚取ってもらい、お互いに意気揚々と気分良くホテルに戻ったのであった。
(おしまい)
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