2020年5月4日月曜日

2020年4月私的エピソードアラカルト2


今年2020年は、結婚して25年目を迎えた。


これまで、毎年の結婚記念日に特別な事をしたことはない。同居開始した日、入籍をした日、結婚式を挙げた日が違いどの日を記念日としたものか夫婦間で取り決めたこともなかったのとお互いに結婚記念日なるものに無頓着でもあった。また、私の仕事柄まとまった休みが取れず、家族旅行はおろか夫婦や子どもを交えてどこかに遊びに行くこともあまりなかった。お互いに趣味というほどのものもないので、専ら子育てと子どもの学校行事を楽しみに過ごしてきたように思う。


子どもがいた頃は、それなりに外食の機会もあったが、夫婦二人きりになると外食することもほとんどなくなった。外出の折に私の方から「何か食べて帰るか?」と誘うが、家内が「家の方が落ち着いて食べられるから」と断る。私としては、家呑みが出来るので、それはそれで都合が悪いわけではない。

年初の頃までは、結婚25年目についての話題が出るたびに、「折角だから、温泉でも行ってみるか?」「これまで子どもに合わせた食事だったから、有名なレストランで贅沢なものを食べるか?」などと話し合っていたのだが、そうこうしている間にcovid-19が日本にも蔓延してしまって、どうも落ち着いて旅行をする情勢ではないなと思っていたところ、4月に入り全国的な緊急事態宣言と夜の飲食店の営業自粛要請なるものが出てしまった。

上に書いたように、夫婦で外食することはあまりないし、私自身も年齢を経るにつれて外に呑みに出る欲求も減ってきたので、飲食店自粛要請が出たところで私自身の生活に大きく影響を来さないように思え、しばらくあまりピンと来なかったのであったが、その後飲食店の苦境に関する情報に接する間に『これはよろしくない状況だな』と思い始めた。

呑むこと・食べる事は、基本的には自前で用意できるものであるし、何かあった時には倹約しやすいものではある。だから外食産業なるものは、人々の生活にとっては余剰の上に成立しているだと思われるが、言葉を変えると人々にとって生活上の憩い、癒し或は潤いを提供してくれているのだと思う。Covid-19による不況下では多くの飲食店が苦境に立たされ、多くの飲食経営者が営業を続けることを断念せざるを得なくなるであろう。Covid-19はいつかは終息してくれるだろうが、その後には、私たちの生活に潤いを与えてくれていた、或はいつの日か訪れることを楽しみにしていた各所の個性的な銘店が姿を消しているかもしれない。大規模なチェーン店は生き残れるかもしれないけれど、それこそどこに行っても同じメニュー・同じサービスは味わえても、個性的で職人仕事をしてくれるサービスを愉しむことが出来なくなることになり、私たちが生きていく上での喜びや潤いを失い事になりはしないか?それは極めてよろしくないことだと思った。

近年、プライベートで外食することも外呑みする機会も減ってしまったが、私には消えて欲しくない飲食店があり、何かの形で微力ながらも協力したいと思うようになった。

ひとつは、私が通うようになって15年以上経つwine bar。この数年は、諸々の事情で年に23度程度利用するくらいになってしまい、私は店側からすると然程重要な顧客とは言えないが、長年の付き合いもあり私なりに贔屓にしている。ここ店主は私と同じ年のソムリエで、いつも笑顔と気さくな物言いで私を迎えてくれる。ワインの銘柄を何時まで経っても覚えられないものだから、毎度彼の勧めるワインをグラス23杯程度楽しんできた。

この度、そのお店のことが気になって、messengerでお店に連絡を入れ余計なことは云わず「なかなか思うように店に行けないから、お勧めのボトルを買い取りさせてもらえないか?」「家でお店に行って呑んだつもりになりたい」と伝えると、店主は快く私の希望に沿ったワインを3本送ってくれた。これらのワインは、数年前にお店で呑んで強い印象を残したカルフォルニア・ナパバレー産のもので、添えられた手紙に店主・ソムリエからのメッセージとそれぞれのワインの特徴が説明されていた。


手元に届いた後で、私が酒類販売の規則に疎いことから、彼に却って迷惑をかけたのではないかとお礼がてらメッセージを送ると、「大丈夫。酒類小売りの許可を取ったから。」とのことだった。ホッと安堵すると共に、‷そりゃそうだ。彼だってお店を維持するために色々打てる手は使っているだろう”と己の世間知らずぶりを独り笑った。

もうひとつのお店は、自宅近いところにあるフレンチレストラン。ミシュラン一つ星の評価を持つお店で、オーナーシェフは地元のマスコミに登場したり、JR寝台特急のメニューを監修するなどの実績を持たれている。私は美食家ではないので、このヒトが手掛ける料理が何と呼ばれる系統或はスタイルなのかは分からないのだけれど、恐らく郊外型の地元の野菜や食材を重視し、軽めのソースで仕上げる日本人の好みに合ったスタイルなのだろうと思う(料理に関する知識が乏しくを適切に表現する語彙を持ち合わせず申し訳ない)。

私としては出来る事であれば、年に23度は訪れて各季節の旬のものを活かした料理をいただきたいと常日頃思っていたのであったが、これも諸々の事情(時間や家庭に関する)で23年に1度訪れる程度の利用であった。

この度4月下旬に、そのオーナーシェフがFB上でテイクアウトメニューを始めること、続いてこのGWは店を閉める内容のスレッドを挙げた。‷これはまずい。地元の銘店がなくなってしまう!” 慌てて家内に「かくかくしかじかで絶対にテイクアウト頼むけんね」と伝えると、家内も「それはサポートしないとね」と珍しく私の意見を受け入れてくれた。

少々話は長くなってしまったけれど、そういう経緯で図らずも美味しいワインと料理の手筈が整った。

426日勤務明けの後、少しばかり自転車を漕いで運動し、片手にwine barから職場に届いたボトルをひっさげて夕方に帰宅。午後7時少し前に前日に予約しておいたテイクアウトの料理を引き取りに上述したレストランに出向いた。オーナーシェフとフロア係をされている奥さんが出迎えてくれて注文の品を渡してくれた。シェフとはFBで繋がっているので私が昼間に自転車に乗っていたことを知っていた。彼が注文の品を手渡してくれる際に「いつもよく自転車漕いでるんですね、今日も。気持ち良かったでしょう」そして「どうもありがとうございます。」と笑顔で話しかけた。私も笑顔で「ええ、楽しいですよ」「次回のテイクアウトメニューも楽しみしています」と応じた。ふたりの笑顔に送られて、帰宅。


それから、家内と手分けして少し料理を温め直して自宅の更に盛り付けて、そしてチーズとワインを卓上に並べて、ご馳走の準備は整った。

25周年、おめでとう」「これから結婚式を挙げた7月まで月一で旨いもの食べるか。」と私が言うと、家内は『あ!』という少し驚いた表情を作り「あ、おめでとう」「それも悪くないね」と珍しく素直に応じた。そして下戸であるにもかかわらず「私にも、すこしワイン頂戴」とグラスを差し出したのだった。


偶然にも、ナパバレー産のカルベネソーヴィニヨン種のワインの濃厚な味わい(ああ、愛好家はフルボディー、タンニンが強くスパイシーな味わい等と表現するのだろうけれど)と、筍、グリンピースの入った春菊のスープ、ローカルブラン牛のローストの組み合わせはばっちりと相性が良く大満足であった。外食が好まない女房と家呑みが好きな亭主には、なかなか良い企画であった。



美味しい食事を取りながら、夫婦の間で特別なことを話したわけではなかった。いつものように二人の子どもに関することが話題の中心になっていたと思う。

ただ私の中では、妻の雑談を聴きながら“こういうご時世だからこそ、互いの関係をあらためて確認することも大切なことだよな”そして“昨日は戻ってこないけど、自分にとって大切な日常を明日につなげるべく、おっさんとしてしてやれることは精一杯やらないとな”と独り思うのだった。