脚に限らず全身の機能の衰えがあり、そして本人の精神的活力低下も相俟って、周囲の者が期待するほどのリハビリ成果を得るまでには至らなかったが、それでも立ち上がりや座ることをアシストすれば自分で杖歩行が出来るまでには回復してくれたのは、周囲の者には有難かった。
リハビリ病院に入院中は、彼女に対して周囲の者からは“それ歩け、歩け”と叱咤激励したものだが、本人の転倒への恐れが残り、病院側からも転倒への懸念からスタッフの見守り下でないと離床はさせられないとのお達しがあったので、本人は誠に“お利口に”病院の言いつけを守っていたようだった。これでは四肢の機能はなかなか周囲が期待するほどには回復しないものだ。本人は当初自宅に帰ることに自信が持てず消極的であったが、転医後の入院期間が1か月以上になると、流石に帰宅への希望が強くなり、この度の家族側からお願いし退院となった。後は日常の生活の中でゆっくりと身体的機能の回復を図ることになる。長引く入院で身体的にだけでなく精神活力の低下と認知機能低下を恐れていたが、幸いなことに記憶力の低下は否めないものの認知症と呼ばれるレベルまでには低下しておらず、私としてはすこしホッとしている。
帰宅当日、近所に住む本人の姉が退院を待ちわびていたと言わんばかりに、いつものいたずらっ子のようなクリクリとした目を更に輝かせてやってきて、早速あれこれと妹の世話を焼いている。「○○ちゃん、トイレ行く?自分で起き上がってみんさい。後ろをついていくけん…..」「じゃあ、自分でベッドに寝てみんさい。脚をほらあげて。そうやって力をつけていかんと」など言っている。妹のほうは、「そうは言われても、出来んけん、困っとるんよねえ」などと、遠慮なく姉に対して愚痴をこぼしている。
ふたりの老女の会話は、お互いに難聴を抱えているものだから、途中で会話がかみ合わず、そばで見守っている私に通訳を頼む始末となり、そばで思わず笑ってしまう有様であった。結局その晩、姉は夜9時過ぎまで妹と話し込み帰って行った。私から見れば、女の会話はよくも話題が尽きぬものだと半ば微笑ましくあり半ばあきれてしまったが、この妹老女にとってはこの姉老女の存在は心強い存在には違いあるまい。頭髪の少なくなり白髪だらけで皺くちゃ顔の二人を見ていると確かに老姉妹ではあるが、二人の関係性は何時の間にやら幼女姉妹のように映っていた。傍らで眺めていると、誠に微笑ましい~老いることも悪くないものだと思える。こういう点において、姉オババの存在は老妹に限らず私にとっても有難い存在となっている。
0 件のコメント:
コメントを投稿