2016年7月1日金曜日

音楽を聴く悦び①

このブログに幾度か書いているのだけれど、私は音楽を聴くことが好きである。ジャンルを問わず、クラシック、現代音楽、ジャズ、ロック、ポップス等。残念ながら、演奏の方は全くできない。せめて楽譜でも読めるようになりたいと思い、高校吹奏楽部に所属する次男に「教えてくれろ」と頼んだが、「オヤジには無理」とあっさりと却下され、未だ勉強に取り掛かれていない。

ここしばらく私は公私ともに気ぜわしく精神的には停滞気味で、移り行く季節にも無頓着であったし、これと言って音楽を聴いて楽しむということもなかった。

6月下旬の夕方シトシトと雨が降る中ある交差点で信号待ち停車をしていたところ、若い男女が傘をさして並んで交差点を渡っていた。おそらく恋人同士なのだろう、お互いに笑顔で何事かを話している様子で大変幸せそうに映った。“ああ良いね、このオジサンにもそう云う時代があったなあ。”と微笑ましく思えたのであるが、ふとその時Oscar Peterson演奏/ Claus Ogerman編曲 Sally’s Tomato( Motion Emotions, 1969)が頭の中で流れて来た。


この曲は、オードリー・ヘップバーン主演映画「ティファニーで朝食を」の挿入曲なのでご存知の方も多いと思うのだが、私は上記したOscar Peterson/ Claus Ogermanコンビの演奏が大変好物なのである。ことあるごとにi-podでこの曲を再生しては独り悦に浸るということをしている。



そう云えば、この曲のオリジナル版の音源を手元に持っていなかった、原曲の演奏はどんな感じだったっけ?と想いYou Tubeで検索し聴き直してみると、Henry Manciniご本人によるアレンジもなかなか恰好良い。ラテン調のリズムにトランペット~バリトンサックス(?)~混声コーラス~マリンバなどでつないでいくメロディーラインはピータソン/ オガーマンコンビのアレンジとはまた別の趣の洗練さを示していて改めて感心してしまった。

Henry Manciniってカッコええなあ。俺、生まれ変わるとしたら、映画音楽・特にロマンス映画専門の作曲家になりたいわあ。頭は禿げ上がっているけど、前頭部が発達していて知性を感じさせるハゲかたで、黒のタートルネックを来て黒のパンツ穿き、それで右の薬指にはデカいサファイアに小粒のダイアモンドをあしらったリングをはめてな、それでピアノの譜面台のところに頬杖ついて静かな微笑みを浮かべて白黒の写真に収まるんやで。ええなあ、カッコええなあ」などと、隣で作業をしているイチロウに駄弁ると、彼はまた私の他愛もない妄想が始まったと言わんばかりに笑っていた。

“ようし、この際今年の梅雨は、Henry Manciniを聴きまくろう。マンシーニ祭りじゃあ”と思い定めネット販売で検索し、「Henry Mancini/ The Classic Soundtrack Collection」を発見し手ごろな価格だと歓び迷わずポチッた。ついでにOgermanアレンジもので今まで持っていなかったものはなかったかしらと更に検索すると、Bill Evans(p)と共演した「symbiosis(1974)」なるアルバムを発見。おお、と歓喜の声を漏らしてこれも迷わずポチッた。


そして待つこと数日後、このCD9枚なるボックスセット1ケース、アルバムCD1枚が手元に届き、「来ちゃったよう」とイチロウに自慢げにそれらを見せた。それから空いた時間を利用してi-tuneに少しずつそれらの音源を取り込みながら、“ふむふむ、マンシーニも良いねえ、エバンスもリリカルで良いし、オガーマンのアレンジもなかなか渋いね”などと独り悦に入りご機嫌な毎日が始まる筈だった。いや実際に始まったのであるが、あることがきっかけで予定が少々狂ってしまった。

手元に来たそれらのCDをイチロウに見せた時、彼は一通り私のCDを眺めた後、「良かったじゃん。でもな、良かったらGuldaも聴いてみてくれ」と返事を寄越した。

その日イチロウは彼のF.B.上でYou Tubeビデオを貼ってFriedrich Gulda(p)の演奏を取り上げていて「大変気に入っているのだ」という趣旨を記載していた。私自身は、Guldaの名前こそ知れ、彼の演奏については全く聴いたことがなかったので、彼の文面だけを読み「そうかそうか」と“いいね”とボタンを押していた。

以前から時折イチロウは、ボソリと「Guldaはなかなか面白くて良いのよ」と言っていたのであるが、私は「ふーん」とスルーしていた。“オイラは、クラシックのピアニストであれば、ポリーニ・ミケランジェリ派じゃけん”などと高を括っていた。

それでもイチロウから「是非聴いてみてくれ」というも珍しく(このヒトの特徴として、趣味なり関心の対象がどストライクの時は意外にも控えめで、その対象が微妙にストライクゾーンから外れている時に私なぞに妙に勧めてくることが多い気がするw:これは私の彼の嗅覚の鋭さに対するやっかみ交じりの偏見なのだろうが。)、多少なりとも気になったので、お付き合いのつもりでその日の夕方車中で、イチロウが聴いてみてくれと言ったYou Tubeのビデオを眺めることにした。 

Friedrich Gulda/ Concerto For Myself

“うん……..?これはこれは。チクショウ、またイチロウに1本取られたw!”いやあ、参った。凄い、面白い。
そのビデオのGuldaの演奏には、「音楽に対する愛情に満ちた」、もっと言ってしまえば「生の悦びに満ち溢れた」そんな陽性の感情が画面全体から溢れ出るような演奏だったのである。私は完全にノックアウトされてしまっていた。

(つづく)

0 件のコメント:

コメントを投稿