イチロウの作った俳句に対して「国文学者李澤京平教授」を真似て、パロディー解説を書いて遊んだみたところ、イチロウ自身に笑ってもらえた事に気分を良くして、更に新たなネタはないかしらと思案したところ、ひとつだけ見つかった。
先週末イチロウが北海道のサイクリング大会に参加して帰ってきた時に、私に道東からのお土産として食べ物を二品持ち帰ってくれていた。袋ごと渡してくれたので、その場では中の物を確かめず、帰宅後その袋の中を確かめて驚いたというか笑ってしまった。その二品とは「エゾシカのカルパス」なるものと「毛ガニ汁」というものであった。
毛ガニについては、これまでにも食べたことが有るので良かったのであるが、エゾシカの肉で作ったカルパス(サラミみたいなもの)は初めて見る食べ物だった。エゾ鹿は確か夏がシーズンだったような気がする。何時か夏期に、フレンチレストランでコースのメインディッシュとしてエゾシカ肉のステーキを出されて食べた記憶があるが、その時に私にはどうも“濃い味”のようでちょっと辛かった。食後のデザートが更に濃厚なチョコレートケーキで、口と胃の中がいっぱいで、それ以来出来れば鹿肉は避けたいなと思うようになった。
そもそも私は、ジビエなど野山の獣肉やその他普段食べ馴れていないものを食するのが大変苦手で、イチロウから何時も「このお口王子野郎w」と笑われていた。イチロウは、食に関しては大変おおらかというかタフな舌を持っており、獣肉を始めその土地土地の珍味を何でも食すオトコである。ハチの子、イナゴは平気であり、多分大陸の奥地でムシやクモや羊の脳ミソが出されても、或はどこかの島嶼地域でアザラシや名の知らぬ軟体生物を出されても、現地のヒト達が旨いと云えば、彼も喜んで食べるであろう。
私の軟弱な舌を彼から「お口の王子様」と笑われているものだから、この度のイチロウの道東行きの際に、私が趣返しと言わんばかりに「俺の土産は気にしなくて良いから、紋別に行ったら、エゾシカ、熊肉、トド肉なんでも好きなだけ喰って来いよw」と言い送り出していた。そういういきさつがあったのものだから、この度イチロウがそのお返しとばかりに「エゾシカのカルパス」を持ち帰ったのには笑ってしまったのだった。このイチロウめw。
これをネタにしようと決めたのであったが、元歌を作るところから始めなければならず、暫く頭の中をこねくり回して以下のような歌を作ってみた。
蝦夷地より 持ち帰りし その品の 由尋ねて 君を想わん
(佐々木朝臣雅紀)
我ながら下手くそな短歌である(といえるかどうかの代物である)。あれこれと語句を足したり引いたりしてもこれ以上の歌は思いつかなかった。取りあえず、架空の歌はこれにして、次に「国文学者 李澤京平教授」が言いそうな解説文を作ってみた。
(国文学者 李澤京平教授の解説)
この歌は、古今東西和歌集に採録されている一首なんですねえ。佐々木朝臣雅紀は、当時瀬戸内地方の国人だったようですねえ。余り資料が残っていないのですが、同時代の安芸国日記なる記録にこの人の名が出ているので実在の人物なんですね。蝦夷地より 持ち帰りし その品の 由尋ねて 君を想わん
(佐々木朝臣雅紀)
我ながら下手くそな短歌である(といえるかどうかの代物である)。あれこれと語句を足したり引いたりしてもこれ以上の歌は思いつかなかった。取りあえず、架空の歌はこれにして、次に「国文学者 李澤京平教授」が言いそうな解説文を作ってみた。
(国文学者 李澤京平教授の解説)
業績といえば「イチロウ行状記」なる文章を遺しているようですが、余り広くは知られておりませんで、一部の研究者が知る所謂知る人ぞ知るという人物です。この人の友人に井筒朝臣一郎宜仁なる人物が居ましてえ、今述べましたイチロウ行状記の主人公なのですが、このヒトが、ある時朝廷から蝦夷地討伐の命が降りまして、弟ジロウとともに蝦夷地に渡ったわけですね。その模様については、「イチロウ行状記」の一部が散逸したらしく、まだ発見されていないわけなんですが、どうも首尾良くイチロウ一行の遠征は目的を成就したようです。そこで一郎宜仁が、機嫌よく雅紀に蝦夷地でのお土産として酒の肴を求めて持ち帰ったのが、これですね。
図録1をご覧になって下さい。先に述べた安芸国日記に、朝臣雅紀の日頃の食生活に触れられているところがございまして、そこを拾い読みしますと「雅紀、もっぱら質素なる食を好み、獣肉これを忌み嫌う。ヒトこれを見てお口長者と笑う」とございます。みなさんもう一度図録1をご覧ください。おわかりですねえ。エゾ鹿の干し肉だったんですねえ。親友である一郎宜仁が長い遠征から無事でしかもご当地のお土産まで携えて帰ってきたよ。恐らく雅紀は殊の外嬉しくその気分のままお土産の包装を解いてみたら、苦手な獣肉だったということなんですね。末句の「君を想わん」なんて強い調子で終わってますねえw。雅紀のその時の気持ちがよく表れていると同時に、それを知りつつ、持ち帰った朝臣一郎宜仁の茶目っ気、笑い顔がこの末句から伝わって来るでしょう。
遠方から帰還した親友の無事を喜び、土産に感謝しつつも、その土産の前で目を白黒させている朝臣昌平のユーモラスな様子が笑える活き活きした優れた歌ですねえ。男同士のユーモアに溢れた友情は昔も今も変わらないことを我々現代人に教えてくれていますですねえ。
そして、結局雅紀はこの品をどうしちゃったんでしょうか?そこを想像すると更に笑えますねえ。
以上です。ご清聴ありがとうございました。
と言った後で振り返ってみると全く下らない文章をF.B.のグループにUPしてイチロウに見せたのであった。
「え、まだ食べてないぞ。」と私が応じると、
イチロウ「なんだと。折角、マサキの事を考えて、トド肉カレー、クマ肉の大和煮もあったところをパスしてやって、エゾシカ・カルパスにしてやってたんだからなあ。だめだな、マサキは、お口王子だな。情けないよ、全くw」と笑っている。
私は「いやいや、食べないとは言ってないじゃん。今晩ちゃんと試してみるからさ」とやや答えに窮してしまった。
“しまった、墓穴を掘ってしまったわい。”“そうりゃそうだよな。折角北海道からお土産は買って帰ってくれたんだから、食わず嫌いせずに、ちゃんといただいてイチロウにその感想をいうことにしないとな。”
その夜、夕食後に酒のツマミとして、「エゾシカ・カルパス」の袋を開けて、恐る恐るその一つを口にしてみた。“ふむふむ、イチロウが云う通りにこりゃサラミみたいなもんだな。”“うん?しかし、この後口に尾を引いて残るような風味は………、むむ。うーん、これはやっぱり。難しいなあw”
私は急いでウイスキーのソーダ割を一気に呑みほしたのであったw。
(終わり)
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