7月17日、18日の二日に2回公演として、Rたちにとっては最後の定期演奏会が開催された。私と家内は、二日とも開場2時間前に会場となった市内のホールに出向いた。既に10数組のお客さんが並んで待っていた。事前に用意した折り畳み椅子に腰かけて待つことになったのであったが、その間スーツ姿の吹奏楽部員OBがボランティアで運営や会場係として働いていた。毎回、このOBの方々のキメの細かいそして配慮の行き届いた接遇には頭が下がる想いがしてきた。お手伝いをされる父兄の方々とOBの先輩方のご尽力があってこその定期演奏会なのである。
この度そのOBの中に、現役中には次男の憧れの先輩で今では県外の大学生になっていた男性数名の姿もあって、大変懐かしくなり挨拶をさせてもらった。
吹奏楽部員たちにとって、大学に進学後スーツを着てこの定期演奏会の手伝いをし、演奏会後に顧問の先生たちと打ち上げをすることがひとつのステイタスになっているようである。また、姿は見えなかったが、早期引退した子達も定期演奏会の2日間は裏方の手伝いとして参加しているようだった。
やがて開演時間となり、会場が暗転し緞帳がゆっくりと上がり1部がスタート。
吹奏楽では大変有名な作曲家で春に急逝された真島俊夫さんに校歌をモチーフにして作曲を依頼した曲から始まった。同吹奏楽部定期演奏会のオープニングを飾る明るく楽しい曲であったが、聴きながら考えてみるにこの曲を聴くのも今回で最後になるのかと思うと、感慨深いものがあった。
プログラムは進み、今年のコンクールで演奏する課題曲のひとつを演奏し、その後緞帳が降りて部員が左右から緞帳の前に2列で出てきて、男性四部合唱で「いざ立て戦人よ」と「ウルトラセブンのテーマ」を無伴奏で演奏。「いざたて~」もこの定期演奏会で知った合唱曲であったが、若い男子が歌うと力強く・またすがすがしさもあり大変聴きごたえあり。「ウルトラセブン」は例の「セブンー、セブンー、セブンー」と始まり「セブン!、セブン!、セブン!」の直後にホルンで“プオー”が入るところまで再現。それが大変可笑しく会場からどっと笑い声が漏れたのだが、合唱が進んで行くと「倒せ火を吐く大怪獣~」の部分では2列目の何名が前列の部員たちの間からワーッと飛び出す動作をして、更に会場が大爆笑となった。演奏する側は真剣そのもので、観客席のどよめきに動じることなく最後まで完璧に歌いきった。合唱が終わると全員で一礼した後、「ショワッチ」と全員で声を出して左右に別れて退場していった。会場は笑いと割れんばかりの大拍手となって雰囲気が一気に盛り上がった。観ていて感動の涙と可笑しさの涙が出そうになって、それをこらえるのに腹筋がよじれてしまい苦しかった(笑)。
1部の残りは、高校生チームが今夏のコンクールで挑む課題曲と自由曲の演奏だった。この2曲とも大変良い曲で、ところどころにオーボエのソロパートが配置されているのと、各楽器パートがメロディーを紡ぐように構成がなされている美しい曲だと思った。オーボエソロパートを担当するA君は、中学チーム時代に部長を経験したのだが、中学時代の反抗期・生意気盛りのオトコどもをまとめるのは大変苦労したらしい。生真面目な彼はしばしば悩み苦しむことになった。しかし、その後そのスランプを乗り越え、その技術を大いに伸ばし最近ではその努力を顧問の先生から大いに認められたとのことだった。その演奏会でのA君のオーボエの音色の美しさは彼の成長の証として本当に光っていた。終演後に、彼の姿を認めたので思わず近寄って握手を求めたら、本当に充足感を得た良い笑顔を見せてくれた。
2部は、雰囲気がガラッと変わって、ディズニー映画の「Mr.インクレディブル」のテーマ曲から始まった。B君のビブラホーンの印象的な旋律、そしてアルトサックスのC君の艶やかな音色のソロパート、そしてバックの金管のアンサンブルも歯切れよく決まっていた。C君は、早くから頭角を現し吹奏楽曲においてもポップス曲においてもソロのパートを任されていた。どちらかと云えばちょい悪不良っぽい・そして妙にプロっぽい所作がステージ上で映えて大変恰好が良い。
そして「シング・シング・シング」に曲目が移った。E君の確かなリズムを刻むドラムのソロから導入し、金管低音部のリフに続いて軽快なテンポでメロディーに進んで行く、SクラのF君がソロを勤め、再び金管から木管へ、そしてまた金管への長めのリフがあり、再びドラム・ソロへ、そして元部長G君が登場しトランペット・ソロ。G君はいつも明るくて冗談好きで彼らの学年のムードメーカーであり中心的存在だった。見事なソロを聴かせてくれて、そでに退場した。そして、最後にRの予告通り、クラリネットのソロとして登場。親としては緊張して見守ったが、淀みのない指さばき・音色もまずまず、そしてブレイクしていく直前の高音も切れることなく出して無事終了、嬉しそうにガッツポーズをして自分の位置に着席。会場から大きな拍手をいただいた。
“へー”と思った。これまで親の前ではほとんど楽器を演奏しないので彼の実力の程は全く分からず、奴の言っていることは大口かホラではないかと半分差し引いて聞いていたのであったが、それなりの演奏をしていたようであった。
その後もポップス曲をメドレーにして、数人の部員が最前列でパフォーマンスを繰り広げ観客を沸かせた。そこにも私が知る生徒君たちが登場したのだが、夫々成長過程でのドラマがあり、ここに記したいのだが、これ以上は書くのは止めておこうと思う。
その他にも高校総合文化祭のテーマ曲「翔~未来への道~」や、「翼をください」の楽器伴奏つきの合唱などが最後の方で披露されたが、こういう合唱曲は子どもが吹奏楽をしなかったら絶対に聴く機会などなかっただろう。これらの曲は彼らの年代に相応しい曲で、彼らが演奏するからこそ心を打つものがうまれてくるのだろうなと思った。特に前者の曲は、地元の高校生が作詞・作曲をしたらしい。結構好きになっていて時々私の頭の中で鳴っているw。
最後にアンコール曲を2曲やって、そしてフィナーレとして「In The Mood」を演奏して拍手喝采のうちにRたち学年の最後の定期演奏会は無事に終わった。
2日目の終演後、生徒たちを学校まで送る係りを仰せつかり、数人の生徒をクルマに乗せて短いドライブをした。どの生徒君たちにも満足そうな笑顔があり、夫々に感想を言い合っていた。助手席に座ったH君は、最後の曲でバリトンサックスのソロパートを担当した。既に顔見知りであったので、私が「この後の反省会で、泣いてしまうだろう?」と冗談半分で聴くと、「ボク、もう出だしの曲から目が潤んでしまって仕方なかったんです。非常にやばかった」と半泣き半笑い状態で応じてくれた。後部座席に座ったC君は私に気を遣ってくれたのか、「いやあ、今回はRに持って行かれちゃったなあ」と声かけてくれた。「いやあそんなことないよ。今回もC君のアルトはばっちり決まっていたよ」と応じると、バックミラー越しに、ステージ上では見せない幾分幼さを残した笑顔を覗かせてくれた。
彼らの演奏会の反省会後、高校3年生のメンバーと数組の親たちでささやかな打ち上げ会を催し、その会を午後9時過ぎに解散。別れ際に元部長のG君にこれまで次男たちの学年を率いてきたことへの労いとお礼を伝えると、彼は「おとうさん、ボク達、後3か月は続けますから」と力強く返事をしてくれた。
そして打ち上げ会場となったレストランの前で、なぜ彼らが知っているのか不思議だったのだが、尾崎豊さんの「卒業」を皆で合唱して解散したのであった。
これから彼らは、夏休み期間に幾つかのイベントをこなした後、吹奏楽コンクールの県大会・地方大会に臨む予定となっている。彼らの先輩たちはこれまでに全国大会出場を何度か果たしたのだが、丁度彼らが中学部に入学して以来5年間は地方大会止まりで敗退し、高校3年生はそこで涙し部活から卒業していった経緯があった。G君の「後3か月」とは、10月に開かれる全国大会に出る!という力強い宣言であったのだ。
一親として「おいおい、君ら受験勉強はどうすんのw!」と突込みを入れたくなる言葉ではあったが、G君のその心意気には感心せざるを得なかった。
“でも彼らだったら、それをやってしまうのだろうな”
バカ親として感じるに、今の彼らだったらひょっとして長年の夢であった全国大会出場を実現させてしまうのだろうなと若いエネルギーの塊のような連中を見るにつけ、“それはそれでまあ良いか”と肯定的に思えるのであった。
(おわり)
追記;本来であれば、彼らが所属する吹奏楽部の顧問・参与の先生方への感謝の気持ちをきちんと表明しておきたいのであるが、G君の弁を待つまでもなく彼らはまだやる気のようであり、もうしばらく彼らの吹奏楽物語は続くようである。彼らの物語がひと段落した時に感謝の気持ちを何処かで書いてみようと思う。
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