2026年8月22日土曜日

題:「心晴れやかお守り」・還暦オヤジの夏 8.


8.吉備津神社にて





翌朝、妻の作った朝食をゆっくり食べてから身支度を整え、妻の実家を出たのは午前9時過ぎだった。妻が帰省に乗ってきたもう一台の車を運転し、国道180号を西に進む。しばらく走ると左手に松並木が見え、その奥の低い山際にお社が見えてきた。交差点を左折して参道を進むと、木々に囲まれた社の手前に参拝客用の駐車場があった。

「げっ、いつの間にかゲートができて有料駐車場になってるじゃないか」。少し前までは無料だったのに、参拝客もそれほど多くない田舎の神社で有料化とは、なんだか少しあざとい気もしてしまう。まあ、境内の保全に必要なのだろうと自分に言い聞かせ、どこか腑に落ちない気持ちのままゲートをくぐって車を停めた。



本殿へと続く石畳の階段を上る前に、手水舎で手を清め、心を整える。ここからは神聖な場所だ。行事のないこの日は参拝客もまばらで、木々に囲まれた石畳には静かで厳かな空気が漂っていた。

学生時代と社会人になってからの10年弱を岡山で過ごした私にとって、ここは思い出深い場所だ。学生の頃は学業成就や合格祈願、家族を持ってからは子供の初節句や初詣、受験の祈願など、人生の節目節目で訪れてきた。神頼みというよりは、自分自身に誓いを立てる場所として参拝してきたのだと思う。

本殿の前には、オレのほかに二組の参拝客がいた。そのうちの一人の女性が目を引いた。私が本殿の前に立つ前から、両手を合わせて小声でぶつぶつと一心に祈り続けている。静かに二拍二礼をして心の中で誓いを終えても、まだ祈りは続いていた。その迫力に一瞬圧倒されたが、よく考えれば、何もない日にわざわざ参拝に訪れるのだから、他人には窺い知れない深い事情があるのかもしれない。

「あ、自分も同じか(笑)」

人それぞれ、いろいろな抱えごとがあるものだ。参拝を終えると、胸の奥に溜まっていた澱(おり)がすっと消えていくような感覚があった。

その後、社務所で陳列棚のお守りを何気なく眺めていた。「安産」「家内安全」「交通安全」「学業成就」……その中に、「心晴れやかお守り」という文字が目に飛び込んできた。

「心晴れやかお守り」——実に良いネーミングではないか。「晴れの国・岡山」の一等神社だけのことはある。

昨晩、義父が「最近おばあさんが不機嫌になったり、怒りっぽくなったりすることが増えた」と愚痴っていたのを思い出した。「お義母さんにお土産に買っていこうか」と思ったが、それでは少し嫌味に聞こえるかもしれない。それなら義父母と私たち夫婦、4人全員の分を授かることにしよう。

そうして4つのお守りをいただいた。どんな時も心穏やかに、晴れやかでいたいものだ。それをご神前での新たな誓いとしよう。やはり参拝に訪れて良かった。

階段を下りて駐車場へ向かう頃には、あれほど重かった気持ちも軽くなり、「心晴れやか、心晴れやか」と頭の中で何度も呟いていた。

車に乗り込み、これから帰る旨を妻にLINEで連絡した。そのついでにスマートフォンに溜まった通知をチェックし、何気なくFacebookを開いて投稿をスクロールしていると、「2026年後半の運勢 血液型×星座別ランキング」という記事が目に留まった。

軽い気持ちで画面を覗き込む。

1〜10位:なし。「まあ、そんなものだろう」 10〜20位:ここにもない。 20〜30位:あれ? 30〜40位:嘘でしょ、ここにも入っていないの?

嫌な予感がしながらさらに読み進めると……

40〜48位:なんと、最下位の48位!

「うわ、最悪だ……」。せっかくおみくじを引かないようにしていたのに、これでは大凶を引いたのと同じではないか。



これから2026年の後半に向かって踏み出そうというのに……いやいや、「心晴れやかに」だぞ!

2026年後半、一体どうなる、オレ……。

(おわり)

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