5.一筋の光明
翌朝6時に目が覚めた。ぼんやりと朝空を眺めながら、昨夜決めた行動計画を頭の中で反復する。
まずは8時ちょうどにガソリンスタンドへ電話をかけ、タイヤ交換が可能か、そして自分の車に合う在庫があるかを確認すること。
頭が冴えてくるにつれ、昨夜からの重苦しい気分が再びもたげてきた。
しばらくしてダイニングに降りてきた妻が、私の顔を覗き込んで「大丈夫?」と声をかけてきた。「ああ」と力なく返事をし、自分なりの予定を話し始めたとき、携帯の着信音が鳴った。
「おはよう。メール見たぜ」 同僚のIからの電話だった。 「で、お前はどういう計画なんだ?」「その計画だと何時頃に終わる見込みだ?」「病院に出てくるっていうが、それは何時になるんだ?」 口調こそ柔らかいが、いつものように的確な質問を投げてくる。ざっくりとした見通ししか返せず、口ごもる自分が情けなかった。
最後にIが言った。 「じゃあ、ディーラーやカー用品店の予約が確実に取れる連休明けじゃないと解決しないな。それなら、とりあえずバスでもタクシーでもいいから、いつも通り病院に来て用事を済ませて休みに入れよ」
ああ、そうだ……。もう割り切るしかない。
本来なら今日からの盆休みを利用し、妻の実家へ里帰りする予定だった。昨日の仕事の件で「長男夫婦を先に行かせ、自分は後から向かう」と予定を組み直したものの、自分が立てた計画では何時に着けるのか見当もつかない状態だったのだ。
本当なら何もかも放り投げてタイヤパンクの解決に全精力を注ぎたかったが、還暦オヤジは様々なものを抱えている。そう簡単にはいかないのだ。トホトホ。
だが、Iの言葉でようやく腹がくくれた。優先事項は決まった。昨日の急変患者の容態確認とIへの申し送り。それが終わったら、妻の実家がある岡山へ新幹線で向かう。
傍らでやり取りを聞いていた妻が、頷きつつも不安げな表情で尋ねてきた。 「本当に来られそう?容態の悪い患者さんがいたら、いつものように泊まり込むんじゃないの? でも今回は来てね。母の80歳の誕生祝い、うちの家族と弟家族で一緒にする約束なんだから」
参ったな、鋭い。夫の行動パターンや弱点を完璧に把握している。目の前に患者がいればそちらへ集中してしまう夫の習性に、しっかりと釘を刺してきた。 もし病院に着いて、昨日の患者さんが危篤状態になっていたら、自分は病院を離れることができるのだろうか?
その時、オレはどうする——?
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