12月6日(日)、西宮市にある兵庫県立芸術文化センターKobelco大ホールで開催された「Hyogo Xmass Jazz Festival 2015/ Sadao Watanabe Naturally」を聴きに行く。
この度は、“独りNabesada祭り”の総仕上げとしてコンサートに赴くことが主たる目的だったのだが、同行者となったコウイチ夫妻との邂逅や会場となった兵庫県立芸術文化センターを観に行くというのも大変楽しみとしていた。コウイチの事やこの会場については、また後日触れたいと思う。
まず備忘録として、このコンサートの出演者を記しておこう。
渡辺貞夫(A.S.)、ジャキス・モレレンバウム(Cello)、イタマール・アシエリ(P)、ルーラ・ガルヴァオン(G)、アルベルト・コンチネンチーノ(G)、パウロ・ブラガ(D)、シジーニョ・モレイラ(Perc)、そして押鐘貴之ストリンスグス(1st violin 4名、2nd violin
4名、viola 2名、cello 2名)。
残念ながら、渡辺貞夫氏とジャキス・モレレンバウム氏以外の出演者の方は、存じ上げず。渡辺貞夫氏の紹介によれば、ドラムのパウロ・ブラガは68年に同氏がサンパウロに単身で渡った際に、その演奏を実際に聴きに行ったことがあったそうだ。“へー”とヒトの縁を誠に勝手ながら感心してしまった。
私とイチロウは1階席の後方ステージにむかって左側の席に座り、コウイチ夫妻は2階席であった。私の周囲を見回すと、私たちよりも年配カップルの姿が目立ち、左右隣りには10年以上年上と思われる女性たち、ふと後方を振り返ると中学生女子のグループが居たりして、その日の観客は文字通り老若男女の方々が集い、ナベサダ氏のファンの年齢層の広さに感心する。左右の女性陣は、ちょっと見た感じジャズやブラジル音楽を聴いてなさそうな方々で不思議な感じがした。後方の中学生女子らしき娘達は、ひょっとしたら吹奏楽部員なのかもしれないなと思った。
午後4時開演。定刻通り、渡辺貞夫氏(以下ナベサダ氏の略記す)がジャキス・モレレンバウム(以下、ジャキス氏と略記)とストリングスを除くメンバーを引き連れステージに登場。メンバー紹介の後、一曲目はA Felicidadeの演奏でコンサートが開演となる。冒頭の1‐2曲の間、11月13日のライブ時と比べると、ナベサダ氏の様子に元気のなさを感じ少々心配したが、演奏が始まるとリードミスやフレーズを失念するようなミスもなく滑らかな演奏を展開し、次第に“氏らしく”なって安心した。
当日演奏された曲目は、1st set冒頭のA Felicidade、2nd set のSamba Em Preludio、以外は全てこの度のアルバム「Naturally」に収められた曲やナベサダ氏のオリジナルを演奏していく展開であった。最初2曲目までジャキス氏が出て来ないものだから、内心「出演キャンセルになったのかしら、超売れっ子ミュージシャンだもんな」等と気落ちしていたのであるが、3曲目からナベサダ氏の紹介で登場した時は、妙に感激したものだ。私の場合は、あのFamilia
Jobimの重要なメンバーとして、坂本龍一氏のボサノバアルバムの共作者としてのみの知識しかなかったのであるが、昨夏に出た初のリーダーアルバムは誠にカッコ良かった。ジャキス氏の登場で、どの曲も音楽的な深み・彩が増したような印象を持った。
この度の「Naturally」は、ジャキス氏が共同プロデュースとなっていて、作曲はほとんどナベサダ氏によるものだけれど、曲のアレンジや音楽監督は全面的にジャキス氏に委ねられていることに気が付く。まるでナベサダ氏がジャキス氏の音楽的世界にその身の委ねながら、伸びやかに心の赴くまま、まさしくnaturallyにサックスを歌わせている感じだった。ナベサダ氏、リズム隊や音楽監督に優れたヒトを迎えると、本当に水を得た魚のようにスイスイと凄い演奏を展開するヒトなんだなあw。その著書の中で、幾度もリズムに言及されていたのがよく分かる。
聴いていて心地よく、コンサート前に少々口にしたアルコールの酔いも手伝って、1st
set目はちょっと眠たかったw。11月13日のライブハウスでの演奏のようなハプニング性はなく、アルバムで聴かれるアレンジをかっちりと演奏している感じであり安心して聴けていたのであるが、あまりにも心地よ過ぎて眠たくなってしまった。ただし、このようにsoft samba やeasy listening jazzをしっとりとかっちりと演奏してしまうのもナベサダ氏の特徴なのであり、これはこれで良しなのだ。1st setの白眉は、やっぱり「Carinhoso」だったかな、ギターの伴奏にナベサダ氏のアルトサックスとジャキス氏のチェロが美しい旋律を奏でいて、もうこの1曲だけでSadao meets Jaques !と称したいw、来てエカッタあ。
この度の「Naturally」フォロー・コンサートツアーは、前々日12月4日に京都市にてジャキス氏抜きで始まった。ナベサダ氏の紹介によると、本コンサート前々日にジャキス氏が来日したとのことであり、音合わせは前日と当日のゲネプロしかなかった筈で、12月6日が実質的な初日だったということになる。ナベサダ氏のMCに多少のギクシャク感があったこと、1‐2曲の出だしで演奏者が苦笑いしてお見合いをする場面などが、微笑ましく感じられ、このメンバーでのツアーが始まったばかりであることを察せられたのであったが、実際の演奏では隙なくかっちりとした演奏に仕上げていて、やっぱりトップミュージシャンたちの技量というものは本当に凄いものだと独り心の中で唸ってしまった。
1ST setが無事終了し、約15分の休憩に入る。隣に座っているイチロウの感想が知りたくて、何気に「前半ちょっと正直眠かったな」と声かけると、彼曰く「確かにね、だが、これはこれで良いんだよ」と妙に確信に満ちた返事を寄越した。“そうか”と思わず嬉しくなった。しばらく体を伸ばすために、座席を離れロビーに出て、他の聴衆や建物の美しい内装を眺めて寛ぎながら2nd setに備える。
2nd setからは、16名編成のストリングスが加わり、演奏を展開。冒頭のバウデン・パウエル作曲の「Samba
Em Preludio」の美しさに思わずため息が出てしまう。11月のライブでも演奏された曲で、その時にも感動してしまったのであったが、この度のストリングスが加えられたアレンジでは、その曲想が持つ美しさや深さが強められていた。この曲のオリジナルが聴きたし、“次回の独り祭りはバウデン・パウエル氏にしようかしら”と思ったりする。
後半に入るとジャキス氏が時々ストリングスのタクトを振り、伴奏やソロに幾分熱が加わったようだった。常に彼の右足が揺れてリズムを刻んでいるのが遠目にも見て取れて、ストリングスへの指揮にも細心の注意を払っている様子が見えた。ジャキス氏にとってもこのお仕事が大変満足いくものだったのだろうな、或はファーストコールのプロフェッショナルとして自分の仕事への自負心の発露だったか。ナベサダ氏の姿勢も前setの時に比べて、シャキッと背筋が伸びたようで、その優しい調べとは裏腹に気合が入ったようであった。
提供される曲もよりeasy listening 調となり、聴衆側もシニア世代の方が多くその反応は常に穏やかであったけれど、ジャキス氏が提供した音楽世界の中でナベサダ氏の演奏の特徴のひとつである、本人の著書から引用すると「自然派的であり、ヒューマンな(これは正直意味が掴めないのだけれどw)」な演奏に、聴衆の誰もが心地よく酔ったのではないだろうか。
2nd setを聴いているうちに、全く個人的な事なのだけれど、私自身がeasy listening musicが好きな理由が上手く言葉になった。奏でられるメロディーやアレンジされた楽器の音色は心地よく、耳に優しくて、聞き流しても良いのだけれど、時々少し注意を払うと演奏者がとても凄いことをやっていることを発見することが出来、それが愉しいのだ。秘めたる音楽的熱情を発見できるという楽しみと言おうか。今、目の前でそういった音楽世界が広がっている、ジャキス氏の暖かく深みのあるcelloの音色と彼の手になるストリングスのアレンジを下地に、ナベサダ氏のこれまたメロディアスで穏やかなaltoの音色が融合して深い音楽世界を見せてくれている。耳心地は良いのだけれど、両者の音楽的情熱がこちらに伝わってくるようで、この両者の音楽的融合は最上のものだったのではあるまいかと思える。
“ああ”と思った。ボクのような素人が、それもショボいオーディオ環境でしかアルバムCDだけしか聴いていなかったら、この二人の音楽を十分理解出来てなかったのだろう。やっぱり聴きに来て良かったとしみじみと思った。不覚にもまた目頭が熱くなったw。
コンサートは、ナベサダ氏が「Sonho De Natal」の演奏直後に「今のがアンコール曲です」とMCを入れて突然のように終了。本人曰く、「さっきの曲が、一応最後の曲でして、一度引っ込んだことにして。それでアンコールの拍手を貰ったことにして。これだけの大人数を引っ込めさせて、また引き連れて出てくるのは大変だから」と聴衆のおだやかな笑いを誘う。
僕としては、突然夢から覚めたような気分でちょっと寂しかった。それだけこのコンサートを十二分に堪能させて貰ったのだろう。
そして、本コンサート最後の曲はピアノ伴奏でチャップリンの「Smile」。しっとりとした演奏で、まだ夢見心地気分を静かに覚醒させてくれているようだった。
コンサートの出来は、パーフェクトだったのではないかと思う。“独りNabesada 祭り”のフィナーレとしては、これ以上の事は望めない、とても幸せな気分だった。
イチロウと座席を立って、ロビーでコウイチ夫妻を待つ間に、彼が幾分淋しそうな表情でポツリと言った。「フェアエル・ナンバーが、スマイルだなんてね。ナベサダらしいだけど・・・・。」と。
この度の「Naturally」から始まった“渡辺貞夫氏との邂逅”は、イチロウと私にとっては色々な意味においてタイムリーだったように思う。二人して同氏の音楽をどう理解していくか?ある時には、スゲースゲーともろ手を挙げて喜び、ある時には大いに悩みながら、CDを聴き比べ、そしてタイミング良く同氏が率いるスモールコンボのジャズライブと今回の大編成のeasy
listening musicを生で聴くことが出来た。ふたりとも同氏の音楽的幅の広さを十二分に堪能し理解できたのではないかと大変満足している。この度の事がなかったら、多分これからも渡辺貞夫氏を聴くこともなかっただろうと思う。
「偶然」と「イチロウの押し」と、そしてmust listen としていくつかのアルバム作品を推奨してくれたGilberto’s関東組の面々、そしてコンサートに誘いチケットを予約してくれたコウイチに感謝申し上げ、目出度く私の“独りNabesada祭り”は終了としたい。多謝。
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