2017年5月31日水曜日

そしてボクらは坂道を目指す


私の周りには、イチロウを除いてふたり自転車好きのオトコがいる。



ひとりはAさん、70数歳の方で、近頃公職を退かれ、恐らくは悠々自適の生活をしておられるようだ。時々夕方になると、私たちの職場の玄関先に自転車を停められて、花壇の縁に腰かけて休息を取られている姿を見かける。黙ってその前を素通りするわけにも行かず、挨拶をすると、満面の笑顔で応じられる。




彼曰く、天気の良い日は夕方3時間かけて自転車に乗っているのだそうだ。時折、団体や県人会などに呼ばれて、全国各所に出かけるそうだが、現地で時間を作って、レンタルサイクルで辺りをサイクリングした話をしてくださることが多い。「毎回、行き当たりばったりの旅程なんだ」という彼の彼の語りから察するに、基本的に放浪することがお好きなご様子で、私なりに好感を抱くことが多い。



そのAさんがある日私に自慢することがあって、彼のGiantのカーボンフレームの車体にギアを電動に交換したことで、「ギアレバーのタッチは軽いし、反応はクイックで気持ち良くギアが入ってくれるので楽ですわ」とのこと。しきりに試してみろと勧めるので、言われるままに自転車に乗らせて貰ってみるとなるほど彼の言われるままの印象なので、ちょっと感心してしまった。私が「良いですね」と述べて自転車をお返しすると、益々嬉しそうな表情を作り、「いやあ、女房に言っても分からないから、黙ってへそくりで買ったんですよ」と私が聴きもしないことを話された。



この「女房に言ってもわからないから…..」、お小遣いで或いはヘソクリで何か買ってしまうのは、私にも身に覚えがありw、深く深くAさんに共感してしまったのであった。



そして話題がひと段落着いたところで、Aさんは立ち上がって自転車に跨ったのであったが、別れ際に「マサキ君も、電動ギアに変えんさい。坂道が随分楽になるよ」と言い残し去ったのであった。



「坂道が楽になる」と言われて、“うむむ”とつい真剣に考え込んでしまったのであった。



二人目は、B君。私の職場に出入りする営業マンで、年頃は20代後半。なんでも大学時代は東京六大学野球部に所属し、レギュラーにはなれなかったけれどベンチ入りはしていたというスポーツマン。学生時代は、本格的に華やかなところの第1線で運動していたヒトであり、私の狭い交際サークルの中でこんなスターはいない。今も、軽く日に焼けて精悍な顔つきと引き締まった所謂細マッチョで好青年である。彼とは時々仕事以外の雑談をするのであるが、彼はオフの日には、トライアスロン、トレッキングラン、ロードバイクと運動をコンスタントにしているとの事であった。私が感心して、「偉いねえ」などというと、照れ笑いをしながら、「いや~、自分の限界を試したいだけなんすよ」と返事し、如何にもスポーツ好青年そのまま様子で、好ましく思っていた。



先日も、仕事の話がひと段落したところで雑談に入り、お互いの運動について話が及んだところ、彼曰く「実はっすねえ、先週石見グランドフォンドの200㎞コースに出て来たんです」「初めて出たので、連れのヒトに引っ張ってもらったんですけど、流石に三瓶山への上りルートはきつかったですねえ……。」等と言うではないか。



“ああ、200㎞コースこなしてきたの。こっちは去年140㎞ミドルコースを、途中遭難/迷子になりつつ、やっとの思いでフィニッシュし、散々の出来だったのに”“この若い奴、200㎞、しかも三瓶山まで上がってきたのか……。やられました。トホホ…..。”



事の次第を彼に説明し、敗北感を感じてしまったと笑いながら伝えると、「まあまあ、マサキさん、僕の場合もタマタマ乗り越えられただけですから」と満面の笑みで慰めてくれている。この辺り、言語外の微妙な感情のやりとりが流れているんだけれど、まあしょうがないかw。元々、バリバリの運動選手で現在も運動を続けている20代のオトコには、腹が少々出てきて血圧が気になりだした下り坂の50オトコがどんなにもがいても叶う筈もあるまい。そこは素直に受け入れないとなw




別れ際に、私が「Bさん、極楽寺山は上ったか?」と問うと、彼「いやあ、まだなんです。」「今度試してみます」なんて殊勝な事いうものだから、つい「じゃあ一度試してみてごらん。ただなあ、猛者が沢山いるから気を付けるんだよ。うふふ」など、芝居がかったことを言ってしまったw。



このおふたりに関わらず、自転車乗りって何時しか或は必然的に、登り坂を意識しはじめるようだ。そうなんだよ、そこに坂道があればチャレンジしたくなる、それぞれのペースで。そしてB君じゃないけど、己の限界・己自身と対話しているんだわ。大げさな事を言ってしまえば、逆境をどのように乗り越えるかということで、そのヒトの人となり・人生観が坂道越えに投影されてしまうんだよな。

少々の傾斜度の低い上り坂であれば、果敢に攻めていきたいし、傾斜のキツイ坂であれば、ただひたすら黙々と上っていきたい。うん、そうありたい(独り納得w)


そこに坂道があれば、ボクらはまたその坂道を目指すのである。

(おわり)


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