それにしても普段早起きできない奴が、自転車のためならこんなに早起きが出来て、我ながら恥ずかしい。朝6時前に起き出して家族に黙って遊びに出かけるなんざ、子ども時代にカブトムシを山に獲りに出かけて以来ではないだろうか。
宮島街道沿いの裏道を西下し廿日市市の速谷神社に到着したのが、午前6時20分頃。「交通の神」が祀られている神社の鳥居前で、此度のチャレンジ成功とその道程安全を祈ったところで、6時30分頃にl極楽寺山へつながる県道を登坂開始。
その日の予定は、極楽寺山を抜ける県道を進み、山沿いの道を安佐南区戸山地区~伴~西風新都~西広島バイパスまで降りてくる行程だった。
他の自転車乗りを見かけたのはお一方のみ。私が登坂する坂道を逆方向に下って行った。そのヒトは一体何時から出張ったのか?凄いおヒトは世の中にいるもんだ。自転車乗りの行動は、大概諸々の理由で朝が早いのだけれど、このヒトは既に山道を下って行ったのだから、ご自宅を出たのは何時だったのだろうか。
速谷神社から極楽寺までの道程は約9㎞。なだらかな上り坂から始まり次第に勾配がきつくなり、センターラインのない完全な山道になって、ピーク手前でつづら折りになっているとのことだった。単独登坂なので、時間を気にせずマイペースで進むことにした。幸いにして時間が早いものだから、行き交う車両も少なく交通状況へのストレスはなかった。ただし、ひたすら登り坂が続き、完全な山道が始まると勾配もきつく両脚への負担はきつく、全身から大量の汗が出てきた。ピークへの到達が待ちわびしく感じられた。
そんな時に思いだされたのが、イチロウが言っていた「苦しくなったら、道端の草花を楽しむこと」だった。そうだった、そうだった。苦しくなってつい下を向いた時に道路周辺の草木を眺めることにした。新芽・新緑が芽吹き始めた状態で大変目に優しかった。
やがてはピーク手前のつづら折りが始まり、左側を見ると、山下に廿日市市街地、その先に宮島が遠望出来た。空は青く、宮島の山々が美しく稜線を描いている。辺りには誰もいない、この景色独り占め状態で、苦しんで登坂してきた者への報酬と想い、独り満足を得る。
つづら折りの登坂道が終わり、しばらくなだらかな勾配を上がっていくとついにピークに到達。
そこからは、なだらかな下り道を降りる。しばらくすると小さな集落があり、田植えが始まっている様子だった。人影はなく周辺のあちこちからはカエルの鳴き声が聴こえてきたのだが、それが却って辺りのもの静けさを際立たせているようであり道端には名も知らぬ桜花(ソメイヨシノではない)が咲き誇り山里の定式美が認められた。このまま通り過ぎるのは勿体なく思え、自転車を下りて記念撮影をする。
再び自転車に乗りその集落を通り過ぎると道幅が狭くなり、うっそうとした針葉樹の林道となった。木々の間からは陽射し漏れ道横には渓流が流れてせせらぎが聴こえ、五感に優しく大変気持ちの良い区間だった 。
やがて自転車の進む道は五日市から湯来町に抜ける県道に出て、交差点を左折し暫くなだらかな上り勾配を進み、沼田分れを右折し安佐南区戸山地区に向かった。
沼田分れから戸山地区に向かう登り坂はなだらかで、先ほどの極楽寺山の登坂道に比べると身体的な負荷は気にならなかった。然程苦しむこともなく上り、いよいよ戸山地区に入る下り坂に入る。
この辺り、舗装の路面が荒れており、車体への衝撃に少し気を配る必要があった。左右の田圃は、まだ田植え前で水が張られた状態ではなかったが、それでも谷間の集落の景色は美しく、私の目を楽しませてくれた。やはりこの地区を通って良かった思う。
しばらくそのまま下り、伴地区~西風新都へ続く道との三叉路で自転車を下りて小休止して記念写真を一枚。田植えがひと段落したころに再訪したいと心に記す。
戸山地区から伴地区に抜ける道は、やや急な勾配を持つ峠道。数年前にイチロウ、ジロウと走行した記憶があったのだが、この度は逆方向に登坂した。こんなに勾配がきつく長かったかなと己の記憶の曖昧さを呪いつつ、歯を食いしばって登坂した。そうだった前回逆方向から登坂した時に「クルマの上がれる坂道だったら、自転車でも上がれるね。」等と能天気な感想を漏らしたっけ。極楽寺山の山坂道比べたら勾配はきついけれど距離は短いはず、黙々とペダルを回せばそのうちにピークに届くだろう。そのとおりだった。疲れを感じていた両脚にはかなり応えたが、立ち往生することなく登坂出来た。
ついに本日のすべての目的とする峠道チャレンジは終わった。三度の登坂後の下り坂では脚を休めながら空気を切りつつ下って行った。
本当に気持ちが良い。下り坂は登坂の苦しみに対する報酬だと思う。新しい午前の日差しの中で空気を切って下っていると、己が肉体を忘れて意識の塊になったような錯覚を覚える。多分登坂中の苦しみの中でアドレナリンとかドーパミンが全開に脳内を駆け巡っているのだろう、そうした状態で下り坂を降りている間に、五感が研ぎ澄まされた状態で、見るもの聞くもの肌に感じられるものに対して鋭くなっているように感じられる。周囲の環境・空気に包まれて生かされているような幸福感が湧いて高揚した気分になる。
広島市周辺は、平地が少なく山々に囲まれて自転車乗りには不向きだと思っていたけれど、逆にこの環境をポジティヴに捉えて山坂道を大いに楽しめば良いのだと思ったのであった。
(おわり)
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