結局イチロウと私は、同窓会開始から30分程度遅れて、会場となったお店に入った。店内に入ると、直ぐにそこに参集した面々が大歓迎の意を表して迎え入れてくれた。「おお、イチロウ、マサキ久しぶり、よく来たなあ」と。彼らが示してくれる無条件の好意、歓迎の表現が大変嬉しかった。
幹事のタカヒロが、二人を席に案内し、他の者に「じゃあ、イチロウとマサキが来たから、乾杯しよう」と音頭を取ってくれた。
程なく、トリイが会場に到着して、私たち二人の横に座った。タカヒロの音頭で乾杯。座席に着いたところで、トリイが話しかけてくれる。彼が近況を話してくれた後、「それにしてもイチロウとマサキはずっとコンビを組んでいたよね。いつも静かに笑っている感じでさ」などというものだから、二人で「ちょっとそれ話盛ってないかw?」と笑う。このトリイは、当時は私からしてみれば学年一のハンサム男で、テニスで好成績を残した。一方でひょうきんなところもあり、元気なグループで楽しそうにやっていたと記憶している。
続いて私たちの荷物をレンタカーで運んでくれたサツキダが登場。タカヒロの音頭で乾杯した後、私の真横に着席。サツキダが「マサキ最近景気はどないや?」などと関西のおっちゃんの風情丸出しで話しかけてきてくれるw。「かくがくしかじかよ」と応じると、「そうか。そりゃな、こうしてこうしてみるとエエで」などと助言をくれるので、有難く傾聴した。
やがて、私たちのテーブルにかつての元気・にぎやかグループの面々が集まって来て、トリイとサツキダ達と当時の話に盛り上がりを見せた。しばらく、彼らの話に耳をかたむけていたが、そこへフルハタが近づいて来たので、「久しぶり」と声をかけ私たちのテーブルに招き入れた。フルハタは、当時どの学校にもいたようなツッパリタイプの少年だった。イチロウと寮の居室を共にしたころから何かに開眼したようであり、後にタカヒロなどから聴くところによると、彼はイチロウに対して当時の事を大変感謝しているらしかった。今では仕事で忙しく活躍しており大盛況を博しているとのことだった。この度の同窓会出席に当たって、彼に会う事も密やかな楽しみだった。彼を我々のテーブルに招いたものの、生憎席が空いていなかったので、私は「フルハタとイチロウの間に積もる話もあろう」と席を譲った。
私は他のテーブルの空いた席に座り、そのテーブルに居たオノやミカらと会話を楽しんだ。夫々に学校を出た後の苦労を経て充実した今日があることを教えてくれたのだが、目の前にいる二人の表情を見ていると、当時の面影を残しつつも流れた年月の重みのようなものが感じられて大変感慨深い想いがした。
突然背後で、爆笑を伴った大声がしたので、振り返ると元気・賑やかグループが大変な盛り上がりを見せていた。サツキダのだみ声と、他の者と賑やかな笑い声と。彼らの当時と変わらないエネルギッシュさに圧倒される想いがしたが、店内のテーブルライトに映し出された各々の表情にも確かなこれまでの道程が刻まれているのが見いだされ、それはオトコどもの群像が描かれたレンブラントの絵画のようであり、ある種の感慨を覚えずにはいられなかった。
しばらく間夫々に会話を楽しんだところで、タカヒロが我々に注目を求め、次回同窓会の幹事役を指名すると述べた。「前回から幹事をしたものが次の会の幹事を指名できるということになっていたから」と切り出し、「毎回写真係で上手く会を盛り上げてくれているモトムラになってもらうよ」とはっきりとした口調で宣言した。
“きたきた”と内心思い、息を潜めて事の次第を観ていたが、タカヒロが続いて「この幹事の仕事は結構大変だから、同じ地元のイチロウとマサキも補佐してあげてよ」と続ける。
“ムムム”薄々と予感してたんだよ。タカヒロがこういう展開に持って行く策を練っていたのではないかと。去年の夏にタカヒロが広島に来て夕食を共にした時に、私が予防線を張っておいたのだが、その際にタカヒロは愛嬌の眼を更に真ん丸にして、「大丈夫だから、マサキ。俺に腹案があるからw」と笑っていたものだ。奴の事だから、イチロウと私が同窓会に対して消極的であることを察知していて、ソフトに二人をこの会につなぎ止めを図ったようにも思えたw。タカヒロは、若い頃からヒトたらしで、相手をうまく丸め込める奴だった。明るい性格なものだから、彼のいう事に誰もが納得せざるを得ず、そして相手に不快な気持ちを抱かせない。それがタカヒロの魅力のひとつなのであり、この度も彼の魅力に引き寄せられて大嵐の中を全国各地からかつての仲間がこうして集まってきているだ。ちらっとイチロウの方を見ると、イチロウも複雑な表情を作っていた。彼も似たようなことを感じたに違いないw。
その後、会はタカヒロとフルハタの行きつけのワインバーにて2次会が行われた。シャンパンで乾杯の後、私は一次会で話しが出来なかった他の同窓生と話すべく席を廻った。何人かの女性陣が固まる傍に行くと、メイコが声をかけてくれてしばらく話をした。学生以来会っていなかったヒトで、彼女が私のこれまでの来歴を聴いてきたので、かくがくしかじかとかいつまんで説明。先方もその後の様子を教えてくれた。彼女は彼女なりに頑張っている様子で幸せそうに微笑んでいた。“よかった”「でも、当時はね、恥ずかしくて女性陣と全く話すことができなかたんだよ。少し大人になってこうして普通にやっと話が出来るようになった」と話を結ぶと、明るく笑って応じてくれた。
私たちが卒業した高校は、一学年50人程度の小規模な学校で全寮制であった。3年間思春期の仲間が寝食を共にしたわけで、そこには濃密な交流とそれに伴うエピソードが多分にあった。当時の自分が他の同級生にどのように映っていたか、変な奴だと思われていたか、妙な堅物だと思われていたか、今となっては分からない。タカヒロは常々「そこで出会った仲間は、ただの友人以上に同じ飯を喰って育ったファミリーみたいなものだ」と言っていた。そうなのかもしれない。今は30年以上の年月を経て、それぞれを肯定できる関係性になっていて、そういう関係は人生の宝みたいなものなのだろう。私もイチロウもこの仲間たちを否定するつもりはなく、むしろ大切な仲間だと感じている。ただ同窓会のようなものが苦手だけなのである。
それぞれに会話の輪が出来て落ち着いた頃、タカヒロが私とイチロウの席に座り、私たちに語り掛けて来た。「今日はありがとうな。本当に嬉しいよ、みんな台風の中でここまでやって来たくれたのだものな。中には、飛行機が飛ばずキャンセルせざるを得なかった奴もいたけれども、これだけ集まってくれたのだもの、自分としては大満足だよ。みんな色んな苦労は夫々にあるかもしれないけれど、こうやって人生を楽しまないとな。」
彼は上記の語りの中で、前後の言葉は忘れたが、“コアなメンバー“ って言葉を出した。どう受け止めたら良いのかなw。この同窓会に消極的なこの二人もコアなメンバーととらえてくれているのかw。どうもタカヒロから今後も毎回同窓会に出ろよなというソフトな工作を受けているような気がしないでもなかったがw、彼が私たち二人を含めて高校時代の仲間を大切に思う気持ちに偽りはなく、彼の仲間に対する愛情を素直に受け入れようと思い笑顔で応じた。
我々3人が話しているところにカシワギがやって来て、「なんだって、明日自転車で走るらしいな。すげーな。バイクそんなに楽しいの?」と話しかけて来た。カシワギは当時から落ち着いたクールな奴で男気に溢れたオトコだった。本人から聴くところによると30歳すぎてから格闘技を始めめきめきと腕を上げて主要な大会で好成績を残し、今では本業の傍らその団体の役員も務めているらしかった。目の前にいる現在の彼はカッコ良いナイスミドルの風情を漂わせて、ある種の風格が生まれていた。
私が「格闘技に比べたら、転ばない限り痛くないから楽だよ」などと冗談めかして応じると、今では爽やか壮年/何かのファッション雑誌に出てきそうなハンサムな笑顔で笑ってくれた。
私が「格闘技に比べたら、転ばない限り痛くないから楽だよ」などと冗談めかして応じると、今では爽やか壮年/何かのファッション雑誌に出てきそうなハンサムな笑顔で笑ってくれた。
あっという間に楽しい時間は過ぎて、イチロウと事前に撤収時間と決めていた午前0時になった。もう一度、そこに集まった古い仲間の顔を眺めた。みんな良い顔してる。それぞれにハンサムになった。このたびは本当に会えて良かった。
仲間に別れの挨拶を済ませて2次会会場を出ようとしたのだが、タカヒロが最後に近づいて来て「明日出発する前に電話入れてくれよ。俺もちょっとサイクリングに付き合うつもりだから」という。
仲間に別れの挨拶を済ませて2次会会場を出ようとしたのだが、タカヒロが最後に近づいて来て「明日出発する前に電話入れてくれよ。俺もちょっとサイクリングに付き合うつもりだから」という。
ええ!、これから彼はホストとして3次会・4次会に付き合うだろうに、体力大丈夫かいな?と思ったのだが、彼のホストとしての優しい心根が感じられて、気持ちよく「了解」と返事をして会場を後にした。
外は気持ちの良い風が吹いており穏やかで気持ちの良い夜だった。
そのままイチロウと共にホテルに戻ったのだが、彼が珍しく「ちょっとなあ、部屋に寄って良いか」という。もう彼らのエネルギーに当てられてちょっと興奮が冷めやらぬのでクールダウンしないと眠れそうにないのだという。
そのままイチロウと共にホテルに戻ったのだが、彼が珍しく「ちょっとなあ、部屋に寄って良いか」という。もう彼らのエネルギーに当てられてちょっと興奮が冷めやらぬのでクールダウンしないと眠れそうにないのだという。
そうだ全くだ、高校時代そのままのエネルギーが今宵の同窓会にはあった。確かに私もそのエネルギーにほだされたような気がしていた。
おわり
おわり
0 件のコメント:
コメントを投稿