つらつら考えてみるに、自分の苦境を他者に理解して貰うことが時には難しいものである。例えば、同業種のヒトに己の仕事上の困難さを話したところで、その困難さが上手く通じないことがあり、同じ仕事内容でも個人に与えられた環境が違えば、夫々に質の異なるトラブルが生じるわけで、類似した環境下で類似した仕事をしている他者であれば理解して貰えそうだが、そういう偶然にそうそう出会えるわけではない。
今ちょっとした苦境に陥っている問題は趣味上の話なので、ここに気楽に書き始めているのだが、その苦境とは、私が所有している24インチの折り畳みバイクの部品六角穴付きボルトの交換で生じている問題である。
私はGiant MR4という折り畳みバイクを持っている。同車は、日本国内限定モデルで1996年に生産を開始、2017年に生産終了となったロングセラー車だった。正確な購入年は失念してしまったが、前後の経緯から思い合わせると2008年頃だったと思われるで、所有歴は9年目となるようである。私にとってはロードバイクへの入門となった自転車であり、自転車に乗る楽しみを教えてもらったモデルであった。
先日久しぶりにこのMR4の簡単なメインテナンス作業をし始めたのであるが、ふと気が付くとヘッドとステムを固定する上記のボルトの腐食が進んでいて、そのボルトを交換したいと思った。
まずはネジの寸法を測り、同寸法と同じボルトをネット通販で探してみたが、規格が記載されているのみ~例えばM○ ○○mm(○のなかは数字)~で、自分が欲しているボルトがどの規格に当てはまるのか分からなかった。
であるならば、ホームセンターにボルトを携えて出向き、同じ規格のものを探せばよいと思い、仕事帰りに帰路途中にあるホームセンターに立ち寄り、ネジコーナーにて探したのだがどうも同じ規格のものを探し出せなかった。
しばらく店内を歩きながらどうしようかと考えていたところ、そういえばそのホームセンターの近くに専門販売店が近年オープンしていたことを想い出し、ちょっと立ち寄り相談してみようと思い至った。生憎同店の閉店時間がせまっていたのだが、間に合わなくとも場所だけでも確認しておいても良いと思い、クルマで向かったのであった。
ただ多少なりとも貴重な情報が得られ、私が欲しているボルトは専門店では得られそうにもない事、私の所有しているMR4は2010モデル以降ヘッドとステムの形状が変更されているとのことだった。
MR4は大変優れた自転車で使っていて楽しいモノなのだが、私にとってちょっと困っていたのは、ヘッドとステムを固定しているそのボルトが走行中に緩みやすく、ちょっとした衝撃でハンドルが下がってしまう事だった。どんなにきつく締めたつもりでも、緩んでしまうので出先途中でレンチを取り出し締めなおす必要があった。いっそのことヘッドパーツとステムを後期モデルと同じものに交換するのもひとつの手かと思われた。
帰宅後、当日の事の次第をイチロウにSNSで報告すると、意外にもイチロウが激しく同情してくれて、自転車オーナーの気持ちを汲んでくれる自転車屋が非常に少ないものだと嘆いてくれた。私としては、「まったくだ」と思われ、溜飲が下がる想いがして大変有難かった。
その後、ネットで色々検索してみるに、世間のスポーツバイク愛好家たちも自転車のネジパーツの交換に苦労されていることを知った。同じ規格のネジ・ボルトをホームセンターで探したり、ないのであればネジ問屋に出向き、それでも同じ規格がなければ大枚はたいて特注のネジをオーダーしなければならない状況に陥ったヒトも居る様子であった。
Giantのホームページを閲覧すると、同社の製品についての問い合わせは販売店部門にしてくれとの事であった。既に専門販売部門の一角への交渉は先に記したように不調に終わってしまったのであったが、幸いなことに市内にもう一店舗あったので、そちらに翌日の夕方に電話連絡し私のMR4のヘッド・ステム・(多分ハンドルも)交換可能か交渉してみると、対応してくれた店員さんが、快く「メーカーに部品の調達が可能か確認してくれる」と返答を下さった。後日休日に同店を訪れてもう少し詳しく相談することにして、電話を終えた。
たったボルトひとつを交換する過程で、思わぬ苦境に陥り少々苦い想いを経験しているのであるが、普段からイチロウがクルマの維持やロードバイクの修理の過程で様々な苦汁を味わっているのを傍でみて来たので、これしきの苦労は大したことではないと思うようになった。
既に生産終了となったMR4であるが、何といってもこのバイクはロングセラーになったくらいの名車なのであり、私個人としても非常に愛おしい。何が何でも可能な限り所有し続けたいと思っている。多少のトラブルに出会いつつも維持する苦労を味わずして、本当のチャリ道の醍醐味を知る喜びは得られないだろう。それに古い名車(クルマ)を所有することに比べたら自転車の維持費なんて比較にならないくらいに安いのだから。
たびたびカーオーナーの中に古いクルマの維持に莫大な労力と情熱を注ぐヒトを見出せるように、自ら所有する自転車を道具やモノとしてだけではなく愛着の対象とする者が自転車乗りの中にもいるのだとするのであれば、どうやら私やイチロウはその部類に入ってしまうのだろう。
そういう輩とそういう輩の相談に快く応じてくれる自転車屋になかなか出会う機会がなく、そこに日本における自転車文化の成熟度を推し量れそうな気がするのであるが、その話をするにはまた別の機会としたいと思う。
つづく
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