再び人家もまばらとなり、本格的な山道になっていく中で、大会オフィシャルが配ってくれたコース地図を見ても、どの辺りを走っているのかよそ者には俄かにオリエンテーションが付きにくく、全くの単独参加であれば随分心細い行程になりそうであった。イチロウが、分岐点の要所要所で待っていてくれたのは正直大いに助かった。
上記した支流沿いのある三叉路で(こう表現せざるを得ないのは、今大会の地図とmsnの地図を見比べても、自分が走ったコースを上手くトレース出来ないからであるのだが)、イチロウと合流して暫く進むと、前方に女性が独り自転車を走らせているところに追いついた。
本来であれば、恰好良く「こんにちは。がんばりましょう」と声をかけて先に行けばよいのだが、緩やかなるも延々と上り勾配が続いていて、私には格好良く颯爽とその女性を追い抜いて行く余力がなかったこと、それからその女性がこんな人影もない山道を独りで走って心細かろうと思われ(あ、これは後付けの理由ですw)。しばらくつかず離れず一緒に走ることにした。
イチロウが、そんなペースの上がらない私を察してか、その女性に向かい「しばらく3人で旭を目指しましょう」と声をかけてくれる。その女性、「私遅いですから、どうぞ先に行ってください」と応答してくれたのであったが、そうしようにもこちらの脚が先行を許してくれなかった。“スタートする前に冗談でイチロウに言ったはずなのに、本当に女性の背をみながら走ることになってしまった”と独り苦笑いする。
やがて旭インターに近づくころ、勾配が険しくなり恐らく6~7%斜度の箇所に差し掛かる。最も軽いギヤに入れてえっちらと登っていく。その女性も感心な事に文句も弱音も吐かずに黙々とペダルを漕いでいる。イチロウ、先行して前方の尾根まで上がりまた戻って来て「後、○○メートルくらい。そしたら楽になるから」と我々二人を励ましに降りてくるという運動を繰り返していた。
“おお、タフネス・イチロウ殿!”流石である。見事な健脚振りを我々に示してくれて励ましてくれていた。カッコいいぞ、イチロウ殿。
やがて旭インター手前の急勾配の難所を乗り切り、Check point ③旭・交流プラザまんてんに11時50分くらいに辿り着く。自転車を転がして、チェックを受けた後、大会オフィシャルが用意してくれたスイーツを食べながら、その女性に改めて挨拶する。その女性は「どうもありがとう」と礼を下さった。県内からこの大会に参加、連れのヒトは別のコースに参加したので、このミドルコースには独りで参加したとのこと。同じペースのヒトにくっついていこうと思ったら、そんなヒトが一人もいなかったと笑っておられた。私と一緒だ、と応じる。
12時過ぎにその女性を入れて3人で出発。その女性が「私は遅いですから、どうぞ先に行ってくださいね」と言われたこともあるので、夫々のペースでCheck Point④断魚渓/ 走行距離27㎞・制限時間14;30を目指すことになった。
だけれども、この③~④の区間がこのミドルコースの最大の難所であり、然程私のペースが上がらず、先行しては登り坂でその女性に追いつかれるという何とも情けない展開になった。
ただ旭インターから邑南町へ抜けていく県道では、所々に山村が開け山の斜面には段々の水田があり、その水田には丁度水が張られ田植えが終わった時期の様子で、正しく美田と呼べる景色を認めることが出来た。本当に美しかったなあ、こんな山の中にも美田を作って生活されているヒト達がいるんだなあ。つい感動の余り、その時近くを走っていた同行の女性に“本当に美しい風景ですねえ”と声掛けをしてしまったのだけど、その女性は黙々とペダルを漕いでいらっしゃって応答なし。“しまった、また変なオッサンと思われただろうな。余計な事はいうまい”と心に決めたw。でも、今でのあの山の中に広がる段々の美田の様子目に浮かぶな~あの景色をもう一度見る価値はあるなと思う。
やがて、③~④区間の難所6-7%上り勾配がやってくる。この頃イチロウは遥か前方を走行しており、同行の女性はちょっと後方。登り坂の前方を見ると、何人かの男性・先行者が自転車を押しながらトボトボと歩いたり、あるヒトは自転車を降りて脚を伸ばしている。
“そうか多分私レベルのオッサンはここでへこたれるポイントなんだな。”
私は自転車を停めて、一息入れて携行しているこむら返り止めの漢方薬を飲み耐性を整えることにした。しばらく休んでいると、同行の女性がやや苦しげながらも笑顔で「がんばりましょう」と言って私を追い抜かして行った。この女性、本当に忍耐強い御仁で内心感心してしまった。“島根の女性は、物静かだけど忍耐強いんだ”と大いに感動する。素晴らしい。
私も、再びその登坂にチャレンジする。ゆっくりと両大腿が攣らないように用心しながらペダルを漕ぎ続けた。本当に長い上り坂だった。その後は邑南町まで細い道を木立を縫いながら、そして右前方には谷間に広がる水田の風景を眺めながら、長い下り坂を降りていった。
自転車での登坂は本当に嫌だけれど、必ずこういうご褒美のような下り坂が待っていてくれる。イチロウには、「勾配0%-フラットなコースしかオイラはヤダよ」などと言ったりするのだけれど、でも自転車に乗って楽しいのは風を切って走る下り坂であり、このご褒美を楽しむためには登り坂の苦労なしには味わえないのだ。自転車の醍醐味はこの“上って下ってなのだ”と思うようになっている。
このコースも登り坂が多く当初は、恨めしい気持ちもなくはなかったが、でもこの邑南町にむかっていく下り坂を味わせて貰って見て、大会が用意しくれたコースに感心するようになっていた。島根県の山林や山里の美しさを十分に堪能させて貰っている、良く出来たコースだと思った。
邑南町を抜けて、やがて国道261号に合流し、そして名勝地断魚渓に14;00前に辿り着く。イチロウは13;30頃には着いていた様子であり、昼ご飯を食べて休息も十分取れていた様子だった。後でイチロウが云うに、私の到着が余りにも遅いため「いよいよマサキはダメか」と思ったらしい。正直、私の両脚は疲労の極に達していたようであったが、実は上に述べたようにコースを楽しんでいて、私の戦闘意欲は十分に保持されていた。イチロウが大会の係りのヒトに聴いたところによると、残りの行程では然程の勾配も残っていないとの事であり、その事を聴かされて安心できている部分もあった。
Check Point④断魚渓の景観は素晴らしかったが、ここでは割愛。14;30ちょっと手前で再びイチロウと共に出発。これまで同行していた女性は「私は遅いので、先に出発させて貰います」と我々に断りを入れてくれて一足先に出発していた。
断魚渓を形成した江の川の支流・濁川に沿って国道261号を下る。やがて再び江の川本流に行き当たる。江の川は中国山地に発し、西に東に蛇行しながら日本海に注いでいて、複雑な山塊を形成したこの辺りを走っていると、なんだか不思議な感じであったであったが、兎も角もコースを急がなくてはいけない。次のCheck Point⑥美郷町粕淵には時間制限は設けられていなかったが、ゴールまで後63㎞・制限時間18;15分を考えると残り時間4時間強で、今までのペースを考えるとあまりゆとりもなさそうであった。
江の川にかかる橋を渡った交差点で、特に大会の標識もなく、イチロウとどちらもからともなくそのまま直進しようということになったのだが、これがちょっとしたハプニングとなったのであった。
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