3.マルタ産のマグロ
G.W.が近づいたある日の昼下がり、イチロウと雑談をしていてお互いにG.W.をどのように過ごすことになるのかという話題になった。前項で記したように私は特別な計画はないので、のんべんだらりと過ごすことになりそうだと話し、「イチロウはどうするの?」と尋ねると、彼曰く「マルタに行く予定になっている」と応じた。
この度も、イチロウなりに齢を重ねられたご両親を気遣いながらの旅程となる様子である。
イチロウ「最近、目が悪くなってなあ。暗い中で灯りを付けても活字がぼやけて読めないんだ」
私「あ、俺だったらひたすらアルコールを注入して寝ちゃうね。気が付いたら、そこはヨーロッパなり、って感じでさ。」等と、何時もの調子で軽く応じていると、イチロウは先日のコウイチの「デカクソナリス事件」のこともあってか、苦笑いしながら「また、適当に流しやがって」という。
「良いなあ、地中海の風景を楽しみながら船に乗って『マルタ観光マグロ網漁』を見てさ、その後は鮮魚市場に移動してもらって『マルタ産マグロの解体ショー』を堪能してさ。好きな部位を買って、そうだな、中トロとカマの処にしとこうか。それもって、特設野外ステージ付きのオープンレストランに移動してさ、好きなようにグリルしてもらうのよ。勿論、「超レアで焼いて」なんて言い添えるだろう。その頃には、辺りは夕暮れよ。しばらくマルタ産の白ワインとグリル・ツナを楽しんでいると、特設ステージに備えられた松明に火が灯されてな。ドラの音を合図に、マルタ騎士団の衣装を着た大柄のオトコと白い民族衣装を着た女の子がステージ上に現れて『マルタ騎士団民族舞踊ショー』が始まるのさ。えーなあw」
「ゆっくりと楽しんでおいで。」職場を引き上げるイチロウの背中にそう言って見送った。
さて、その日の昼間に在宅介護サービスを受けている母親が生活リハビリを兼ねてセラピスト同行での買い物に出かけていた。マグロ好きである私が当日実家に泊まることになっていたのでと理由で、彼女がマグロの赤身を買ってきていた。
どれどれ、とその赤身のパッケージを見ると、全く偶然にも「マルタ産のマグロ」と表示されているではないかw。“おふくろさん、やったね!”と大いに感謝して、何を作ろうかと思案。
そうだな、ネギマを作ろうと思い立ち、歓び勇んで調理(というほどの事もないけれど)を開始した。
・分量は適当で、醤油、砂糖、みりん、お酒にニンニクと生姜の刻んだものを入れてタレを作る。
・ナス、白ネギを切って、それをサラダ油をひいたフライパンに投入、軽く塩コショウをかけて焦げ目が付くまで焼く。そして平皿に盛り付けておく
・マグロの赤身は、食べやすい大きさに切って軽く塩コショウで下味をつけておく。フライパンに油をひいて熱したら、レア状態で焼くことを意図して、赤身を投入したら数十秒で先ほど用意したタレを投入して、直ぐに火を外して先ほどの平皿に盛り付けて出来上がり。
見てくれは宜しくはないかもしれないけれど、大変美味しゅうございました。
私は、そのネギマもどきを母親と分け合いながら、「果たしてマルタ島では地元で上がったマグロをどんな風に食べるのかしら。或は、それとも市場に上がったマグロは片っ端から日本の水産会社が買占めてしまって地元にはあまり出回らず、マルタ産のマグロを現地で食べることは案外難しいのかも知れないな。だけれど、イチロウ・ジロウのことだから地元の洒落たシーフードにありつくのだろうな。」等とひとり誠に平和ボケで無責任な空想をしばらくしたのであった。
(おわり)
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