2016年5月1日日曜日

オトコどもの黄金週間のはじまり②


3.マルタ産のマグロ

 

G.W.が近づいたある日の昼下がり、イチロウと雑談をしていてお互いにG.W.をどのように過ごすことになるのかという話題になった。前項で記したように私は特別な計画はないので、のんべんだらりと過ごすことになりそうだと話し、「イチロウはどうするの?」と尋ねると、彼曰く「マルタに行く予定になっている」と応じた。

 ご両親からの誘いらしく、イチロウとジロウが“随行する”ことになったのだという。私は、若い頃何度かイチロウのご両親にお会いしたことが有ったが、なかなかチャーミングなご夫妻で、話していて楽しかった記憶がある。あれから、既に四半世紀の年月は経っているのだから、時折イチロウ伝手に最近のご夫妻のご様子を窺うに、その後に流れた年月分の御歳は重ねていらっしゃるらしい。

この度も、イチロウなりに齢を重ねられたご両親を気遣いながらの旅程となる様子である。

 そんなご家族の機微を察しつつも、何時ものおバカな調子で、マルタに行ったなら何をするのかとイチロウに尋ねると、「うーん、特に予定というものは立てていないのだけど、一応レンタサイクルを抑えているのだ」という。全くイチロウ・ジロウ兄弟らしい選択だと思う。

 
その日は、日常の業務に流されてそれ以上の話題にはならなかったのであるが、いよいよ出発日当日になってイチロウがボソッとぼやき始めた。

 曰く、「マルタ島に行くのが面倒くさいな」だと。「だってさ、仕事が終わって今晩中に飛行機で、東京羽田に飛ぶだろう。その後、モノレールに電車に大きなトランクをゴロゴロ押して移動。その晩は都内で1泊して荷物を開いて翌日には荷物を締まって、また重たい荷物を持ってえっちらと成田に移動だろう。成田に着いたら着いたで、長い時間かけて出国手続き、その後はまた搭乗口付近のラウンジで暇を持て余し、飛行機に乗ったら乗ったで狭いところに11時間も缶詰状態にさせられて、その後時間が来たら、美味くもない機内食をそれ食えとばかりに強制的に食わされて。やることがないから、ツマンナイ映画を観てガックシ来てなあ。」と続けた。

 私、「良いじゃないのう。普段読めない本を読むのも良し。」

イチロウ「最近、目が悪くなってなあ。暗い中で灯りを付けても活字がぼやけて読めないんだ」

私「あ、俺だったらひたすらアルコールを注入して寝ちゃうね。気が付いたら、そこはヨーロッパなり、って感じでさ。」等と、何時もの調子で軽く応じていると、イチロウは先日のコウイチの「デカクソナリス事件」のこともあってか、苦笑いしながら「また、適当に流しやがって」という。

 更に、私が調子に乗って「マルタ島と云えば、ええっと、『マルタの鷹』に、そうそうマルタ産のマグロがあるじゃん」「それに、そうだったマルタ島騎士団なんてものもあった」


「良いなあ、地中海の風景を楽しみながら船に乗って『マルタ観光マグロ網漁』を見てさ、その後は鮮魚市場に移動してもらって『マルタ産マグロの解体ショー』を堪能してさ。好きな部位を買って、そうだな、中トロとカマの処にしとこうか。それもって、特設野外ステージ付きのオープンレストランに移動してさ、好きなようにグリルしてもらうのよ。勿論、「超レアで焼いて」なんて言い添えるだろう。その頃には、辺りは夕暮れよ。しばらくマルタ産の白ワインとグリル・ツナを楽しんでいると、特設ステージに備えられた松明に火が灯されてな。ドラの音を合図に、マルタ騎士団の衣装を着た大柄のオトコと白い民族衣装を着た女の子がステージ上に現れて『マルタ騎士団民族舞踊ショー』が始まるのさ。えーなあw」

 マルタ島に関する私の乏しい知識を全開にして、福山鞆の浦の「観光鯛網漁」と国内の何処かの観光市場で行われている「マグロ解体ショー」とずっと昔にハワイで見たポリネシアン・ショーを混同した妄想を展開して、独り悦に入ってしまった。

 大体「マルタの鷹」なんて、ダーシル・ハメット原作のハードボイルド探偵小説の題名であって、舞台は米国西海岸でマルタ島は直接何の関係もないのだが、“この際連休中に読み直してみるか”と他人様から得たヒントに乗って遊んでしまおうと相も変わらずの軽薄なことを考えている。

 全くの私のええ加減な話に、イチロウはすっかり呆れ果て「独りで言っとけ」と黙ってしまった。仕方がないので、wikipediaでマルタ島について調べる。ふーん、なるほど。そうか。なかなか良さそうなところじゃないの。お土産はガラス細工、レース編み物に、マルタ十字をあしらったペンダント、お、ハチミツが有名なのか。

「ゆっくりと楽しんでおいで。」職場を引き上げるイチロウの背中にそう言って見送った。

 

さて、その日の昼間に在宅介護サービスを受けている母親が生活リハビリを兼ねてセラピスト同行での買い物に出かけていた。マグロ好きである私が当日実家に泊まることになっていたのでと理由で、彼女がマグロの赤身を買ってきていた。

 

どれどれ、とその赤身のパッケージを見ると、全く偶然にも「マルタ産のマグロ」と表示されているではないかw。“おふくろさん、やったね!”と大いに感謝して、何を作ろうかと思案。

 

 
そうだな、ネギマを作ろうと思い立ち、歓び勇んで調理(というほどの事もないけれど)を開始した。

・分量は適当で、醤油、砂糖、みりん、お酒にニンニクと生姜の刻んだものを入れてタレを作る。

・ナス、白ネギを切って、それをサラダ油をひいたフライパンに投入、軽く塩コショウをかけて焦げ目が付くまで焼く。そして平皿に盛り付けておく

・マグロの赤身は、食べやすい大きさに切って軽く塩コショウで下味をつけておく。フライパンに油をひいて熱したら、レア状態で焼くことを意図して、赤身を投入したら数十秒で先ほど用意したタレを投入して、直ぐに火を外して先ほどの平皿に盛り付けて出来上がり。


 
 
見てくれは宜しくはないかもしれないけれど、大変美味しゅうございました。

 どなたからか、「勿体ない喰い方しやがって」と怒られそうだけど、これはこれで旨かったですぞ。

 

私は、そのネギマもどきを母親と分け合いながら、「果たしてマルタ島では地元で上がったマグロをどんな風に食べるのかしら。或は、それとも市場に上がったマグロは片っ端から日本の水産会社が買占めてしまって地元にはあまり出回らず、マルタ産のマグロを現地で食べることは案外難しいのかも知れないな。だけれど、イチロウ・ジロウのことだから地元の洒落たシーフードにありつくのだろうな。」等とひとり誠に平和ボケで無責任な空想をしばらくしたのであった。
 
 
(おわり)

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