あれは何時のことだったのだろうか?イチロウが、「石見グランドフォンドという良い大会が5月にあるから申し込んでおくぞ」と問いただしてきたので、つい「ああ、分かった」と返事をした。
年度が変われば、自転車に乗る時間が出来てそれなりに準備が出来ているだろうと高を括っていたのであるが、4月になって毎年のように「この時期は忙しくなるのだったな」と思いだしあれよあれよという間に、大会は明後日(正確には5月15日の明日)になってしまった。
マサキは、全くトレーニングしていないのに140㎞のミドルコースに出走することになっている。
GW明けに、マサキは己の練習不足(ていうか、運動不足)から石見グランドフォンドに出場しても完走する自信が持てず「今度の大会棄権するわ」とイチロウに上申した。
イチロウは「あいや、その件分かった」と言いつつも、「ところで」と話を繋ぎ、GW中にイチロウとジロウが会って雑談する中で、「どうも最近マサキは自転車に対して全くやる気なし。Gilberto’sの侍従及び祐筆を解任するべし」という結論になったらしく、「そういう沙汰になったからな」と告げた。
その話を聴かされたマサキはがっくりと深く頭を垂れてしまうしかなかった。
イチロウは「あいや、その件分かった」と言いつつも、「ところで」と話を繋ぎ、GW中にイチロウとジロウが会って雑談する中で、「どうも最近マサキは自転車に対して全くやる気なし。Gilberto’sの侍従及び祐筆を解任するべし」という結論になったらしく、「そういう沙汰になったからな」と告げた。
その話を聴かされたマサキはがっくりと深く頭を垂れてしまうしかなかった。
暫くはこの度のことやむを得ずと己に言い聞かせていたものの、やはり「行かねば、オトコじゃあないよな」と妙なところで、男としての矜持を示したい欲求に駆られ(この辺りはおバカ以外の何ものでもないがw)、ギリギリになって「イチロウ、やっぱオレ出るわ」とGilberto’sのチャットで宣言してしまったのが月曜日であった。
火曜日、イチロウは「無理はしなくても良いぞ」と言いつつも、やはりどこか嬉しそうな様子。「今回は、当然Gilberto’sのチームジャージで出るよな」と問いかけるものだから、二つ返事で「了解」と答えたのだが、その夜自宅に戻り納戸を何度も探せど(この辺のダジャレはご容赦願いますル)、チームジャージが出て来ない。
“???” プライベートなジャージは容易に出てくるのだが、肝心なチームジャージは全く見当たらず。さては、先月の大掃除の時に無意識にどこかにしまい込んでしまったらしい。“いいえ、決して捨てるなどという大それた事は有りえず”と独りで心を強くしてもどこか自信が持てず。
水曜日に、恐る恐るイチロウにチームジャージが見当たらない旨伝えたところ、イチロウ「一応本部に伝えておくが、この事態それ相応の処分が下るから、覚悟めされよ。おそらくジロウ先生から破門の沙汰が下ること必定だからのう」としたり顔で言うではないか。
“このマサキとしたことが、ほんの数日でチームの中枢政治局から失脚し、更には党員資格まで剥奪され、何時放逐されるかもしれずという瀬戸際まで追い込まれてしまっている。どうもその裏にきな臭い政治的意図を感じずにもいられないが、せめてもの救いはここがコミュンテルンでなくて良かったこと。シベリア送りにはならずには済むだろう”と勝手に旧ソ連スパイもの小説の気分を半分楽しみつつも、心の何処かでは実際にチームから除名されてしまうのではないかという一抹の不安を感じていた。
マサキとしては、このままチームジャージを無くしたという理由でチームから放逐される不名誉だけは何とも避けたい。例え近未来にしても遠い将来いずれかにチームを去ることがあったとしても、“失脚・放逐・処払い・島流し”というような類の不名誉な形で去りたくないではないかと思うのであった。
そして、その夜もう一度気合を入れ直し、自宅のタンス・棚類、納戸の衣装ケース、屋外の倉庫を徹底的に当たったところ、ありました!なんと前日見た筈の納戸・衣装ケースの片隅に置いていたTSUTAYAの小さなビニール袋の中にあった!
早速時間も考慮せずその日の深夜にイチロウにmessengerで「処払いの上遠島を申しつけられることは免れたw」とその旨報告した。
木曜日、マサキのチームジャージが有ったという報告にイチロウが気を良くしてその表情を明るくしている。「良かったなあマサキ。これで本部に報告しなくて良かったな。」と、続けて「どうも最近、俺ばかりが突っ走っているというか、周囲との温度差を感じていたんだよな」とボソッという。彼にしてみれば、やっとマサキのやる気が出て来たところで、気が緩んだのかもしれない。どうも自転車へのモチベーションが独り強すぎて周囲から浮いているようだ、というのである。マサキが「あれ?ジロウがいるじゃん。」と尋ねると、彼曰く「最近ジロウ先生も副業が忙しいらしくてなあ」という。つい気が楽になっておバカ丸出しのマサキが「だからさあ、世の中のオジサンたちは皆忙しいんだよう」とつい調子に乗って言ったところ、妙にその言葉がイチロウの心に刺さったらしく、言ってしまった者が後悔するくらいにがっくりと来ている。
“これはしまったわい”と思ったマサキはイチロウのテンションを再度挙げるべく、色々と軽口を叩くが暫くはイチロウの表情はどこか暗いままである。
金曜日、その日は職場のお留守番のためお泊りであるために、土曜日からの石見遠征に備えて、ジャージや道具など準備を整えて出勤。昼休みに、自転車を磨き、チェーンに潤滑油を指し、タイヤの空気をチェックしたところで、イチロウ・ジロウが昨年北イタリアにある自転車の守護聖人が祀られている何とかという教会を訪れた際にお土産で買って来てくれたチャームを愛車に装着して貰うべくイチロウに頼む。イチロウは、快く「良いぞ。」言い、マサキの愛車のサドル下に装着してくれた。
作業の流れでというか、お守りがあるのを思い出して何気なくイチロウに装着を頼んだのではあったが、実際に守護聖人の紋章の入ったチャームを愛車に装着して貰ってみると、マサキは全く予期していなかったのであるが、そのチャームから何かしらの霊的なエネルギーを貰ったようで大会に向けてのモチベーションが高まってくるのを感じたのだった。イチロウも満足そうな笑顔を示し、「やっとマサキがその気になってきたな。日曜日は曇りになったけれど、却って陽射しも強くなくてコンディションとしては最良かもな」と言い、昨日一度下がった彼のテンションもまた十分に回復してきたようだった。
そして、機嫌よく「あのさ、you tubeに石見グランドフォンドのコース案内がupされているから、一応チェックしておけよ。イメージ掴んでおいた方が良いからな」と言った。そして「思ったより行けそうだぞ、女の子も140㎞コースは沢山出ているみたいだし」と続けた。
マサキもイチロウの言われるままにその動画を観てみた。
「何々。なぬー、やっぱりアップダウンがきつそうじゃないの……..。トホホ。」
というわけで、出場を宣言したことを後悔しつつ軽い緊張を覚え始め、眼が冴えて夜眠れなくなったので、この駄文を大急ぎで書いた次第なのである。
守護聖人からのご加護がありますように。
守護聖人からのご加護がありますように。
(つづく)
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