2022年1月27日木曜日

ひとり立ち食い蕎麦屋ごっこ遊び

ある日突然無性に立ち食い蕎麦屋に行って、思いの向くままに揚げ物をトッピングしてかけそばを喰いたくなった。そこには、それなりの伏線なり心の準備状態というものがあって、都内に住むコウスケがここしばらく週に34回程度、立ち寄った立ち喰い蕎麦屋で注文した品をSNS上載せていた。それを毎回眺めては「いいね」ボタンを押しつつ、都会の勤労者の行動生態の一端を眺めているようで興味深く思っていたのだが、自分の生活行動上、立ち喰い蕎麦なるものを喰う、或は立ち食いソバ屋に出向くという行為は全く縁遠いものとして捉えていた。

私自身は、立ち食い蕎麦屋はほぼ無縁で、以前は上京した折に1人で昼食を取る際に立ち寄ったことが23回ある程度であった。利用したのは駅周辺にあるチェーン店で、気軽に利用できるものの特別に美味しいと感じたことがなかった。周囲のサラリーマンらしきオトコどもが手慣れた感じで、券売機から各自好きな揚げ物その他のトッピング、カレーやおにぎりなどのサイドメニューを追加している様子に、私も彼らに習って自分なりのチョイスを選ぼうとしたのだが、どうしても上手くいかず、ある種の敗北感を覚えたものだった。そこにはひとつの文化なり世界があるようで、田舎者にとってその世界に馴染むことが困難なように思われた。

 1月のある日、暇な時間にYou Tubeのインデックスを眺めていたら、あるユーチューバーが立ち喰い蕎麦屋・丼屋の厨房のドキュメントをupしていた。面白そうなのでその動画を視聴したところこれがなかなか興味深く、繁忙時間帯になると、店員達が(店主だけのところもある)注文を受けてから数十秒から数分程度で手際よく連携し、蕎麦の温め直しから丼投入~出汁を投入、注文に従って各種揚げ物やトッピングの品を載せ、刻み葱を添えた後、カウンターで客に渡す作業を捉えていた。店が用意した揚げ物などのトッピング品とご飯類などのサイドメニューの数だけ選択肢は豊富で、その中から客側は自分の体調なり空腹の程度に合わせて、頭の中で選択肢のアイデアをまとめ注文を繰り出し、店側はその各客の個性的な注文をひとつひとつ手際よく応じて調理していく様は、見ていて楽しく壮観ですらあった。立ち食い蕎麦屋といえば、早い安いだけのファストフードだと思っていたのだが、そのドキュメントを観ていると、各店で色々な工夫がなされているようであり、そこには「旨い」も疑いなくありそうであった。

 客側には限られた時間や予算の中で、各立ち食い蕎麦屋に対する期待なり楽しみがあり、その客の期待に対して一心不乱に応じている店側の様は、ひとつの世界観なり文化がありそうであった。

 そう思えて来たら、無性に立ち食い蕎麦屋に行って、かけそばに自分なりのセンスでトッピング物を選んで食べてみたいという欲求が急激に湧き上がって抑えられなくなった。スマホで自宅から通えそうな立ち食い蕎麦屋を検索してみたところ、2軒程度しかなさそうで、それらの2軒は駅中と繁華街の位置しているようであった。私の通勤路からは程遠く、またクルマ通勤をしていることから普段気軽に立ち寄れる場所にないことや、昨今の情勢から人込みが予想されるところにわざわざ出向く道理はなさそうであった。そう思うと、なんとも残念であったが、そういう自己抑制を効かせなくてはなくてはならない状況であればあるほど、立ち食い蕎麦屋への憧憬は募るばかりで、どうしたものかと思案していたところ閃いたのが、そうだ!立ち食い蕎麦屋ごっこをしてみるか!というアイデアであった。

 なるべく立ち食い蕎麦屋で注文されそうなそれほど高価でないトッピング類を準備して、素早く調理して、素早く喰ってみる。準備も摂食もスピード重視で「早い」「安い」「旨い」を追及することをモットーに遊んでみようという事になった。

 実行に移す前に、コウスケにSNSのメッセージで趣旨を説明し、実際の現場では「提供時間」「完食時間」はどのくらいかかるのか尋ねてみた。彼曰く、提供時間は店によって違うが、5分以内であること、完食時間についてはあくまでも個人的な状況になるが、5分以内とのことであった。そうか、5分・5分以内がひとつの基準になるんだね、了解。

 先週末と今週前半の職場留守番の機会を利用して、「ごっこ遊び」を実行に移してみる。事前に生そば(これは後で多少課題であることを悟る)、刻み葱、市販の濃縮出汁、その他揚げ物の類を購入した。この度は、ローカル色を出してトッピングにはガンス(魚のすり身をフライにしたもの)選び、その他鶏の唐揚げを加えることにした。

 

「ごっこ遊び」~その1

注文;かけそばに、トッピングとしてガンス2枚、鶏のから揚げ2個、そして生卵。

事前に、出し汁(市販の濃縮出汁に醤油、みりん、お酒を少々加えて、自分好みに)、各種揚げ物はトースターで温め、生そばを茹でるために鍋に火をかけるなどの用意をしておく。そこから自分でオーダーを唱えて作業を開始。蕎麦茹でどんぶりへの麺、トッピング類、最後に生卵、刻み葱を投入しテーブルに置く行程で、タイムを計ると提供所要時間315秒だった。よし、やったねw!



実食:手際よく目標タイム内に準備したことを自画自賛する暇もなく、立ったままで/ なにせ立ち食いですから、実食に取り掛かる。旨し!ガンスは単体で食べるとすこし塩味が強く個人的には抵抗感があるのだが、出し汁と合わせると塩味が落ち着き相性ばっちり、コンビニ購入した鶏のから揚げも悪くない。かけそばとこれらの揚げ物は全く問題なく、十分に成立している。良かった。出し汁も飲み干して完食所要時間は、413秒。うん、これだと現場で食べても周囲から違和感をおぼえられないだろう。しかし、誰もいない部屋でひとり立ったままで食べるのは行儀が悪いし、不様な体ではあったw

 「ごっこ遊び」~その2~

注文;かけそばに、野菜天(それも簡易なもの)、生卵をトッピング、サイドメニューにカレーライス。このかけそばにカレーライスをサイドメニューとすることを一度やってみたかった。数少ない立ち食い蕎麦屋経験においても、You Tubeにおいても腹をすかせた学生や勤労者が良くやっている技と思われる。幸いにして、数日前に拵えて冷凍保存していたカレーもありタイミングも良かった。野菜天は本来ならばきちんとかき揚げを作りたいところなのだが、私には技量も時間もないため、市販のマルちゃんまいたけ天ぷらなるものを用意した。前回と同じように、出し汁、各トッピング品、沸騰したお湯の鍋、そして解答し暖めたカレー(ちょっとだし汁を加えて、蕎麦屋風を出して)の用意が出来たところで、注文を念じたところで作業を開始。提供所要時間:347秒。



実食:蕎麦は市販の生そばを茹でたものだけどそれなりに旨いし、市販の天ぷらもなかなか捨てがたし。カレーは出し汁を加えることで蕎麦屋のカレーっぽくなっている。具沢山になっているのは、蕎麦屋っぽくないがそれはご愛嬌としたい。コウスケがupするお店のカレーの中にはなかなか本格的なものもある様子であるので、昨今の「蕎麦屋のカレー」と云っても、一括りに表することも出来なようである。都内の蕎麦屋を体験し辛い私には、それらのカレーを食して研究できないのが甚だ残念ではある。かけそばのサイドメニューとしてカレーを選ぶのは、オトコどもにとってはよく有る選択肢なのだが、実際に食べてみるとなかなかのボリュームであり、私がこのメニューを日常的にこなすのは無理なように思われた。当日は朝昼食を抜いて準備していたのに、この量を完食するのは大変苦しかった。齢だなあw。一応出し汁を少し残した時点で実食終了とする。(完食)所要時間:707秒。目標タイムを2分もオーバーしてしまった。ムムム……。これは熱々のカレーを食べこなすのに手間取ったのが主な要因だった。実際の立ち食い蕎麦屋ではカレーの温度は適度に抑えているのかな、この辺も確認してみたいところだったりする。

 2回「ごっこ遊び」してみて、それなりにメニューにも手際よく準備する過程も、出来たもの・その味も立ち食い蕎麦屋らしくなり楽しめたのだけれど、一人で立って食べていてはやっぱり寂しいw。やはり、店員さんとの短いながらも息の合ったやり取りや、適度に他の客で賑わっているところで、勢いよくそばを食べる行為をしたいw。現場じゃないとダメなんだよなあ(当たり前だw)

 一応簡単に事の顛末をコウスケにメッセンジャーで報告したところ、「あっぱれw」との返信に続いて、彼からコミュニケ誌をお送りしたいとのことだった。23日後に、手元にそのペーパーが送られてきたのであったが、その中に「東京立ち食い蕎麦屋逍遥」なる記事があって、司会役の女性一人と、男性二人(コウスケも含む)が、都内の立ち食い蕎麦屋の銘店を巡り、各自思い思いのトッピングを選びながら各店の蕎麦を愉しむという内容の記事が載っていた。その行間には、変わりゆく都内の風景やちょっとした江戸文化や昭和の情景に触れつつ、時代が移り変わっても営業を続けている各立ち食い蕎麦屋へのオマージュが込められていたようであった。そのペーパーを受け取ったお礼がてらコウスケにメッセージを出し、23の会話を交わす。私がタイトルも記事内容もとても興味深く面白かったと伝えると、お礼と共に彼曰く「立ち食い蕎麦屋」は文化なのだと、その文化が時代の流れと共に消えつつあり、今のうちに失われていくその文化を愛でたいのだ(これは私の意訳も含まれているが)という内容の返信があった。


 

うむむ、彼の言う事解るような気がするな 

立ち食い蕎麦を喰うことは、失われつつある文化へのオマージュでもあると。そうだよねえ。ああ、私も流行り病蔓延が落ち着いたら、上京してコウスケの勧める立ち食い蕎麦屋を巡る遊びを是非ともしたいものだ。それまでは、それらしいメニューを考えて「立ち食い蕎麦屋ごっこ」時々やりながら、その日を待つか……。その日まで待っててよ、立ち食い蕎麦の銘店さん。

 

(おしまい)

 

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