2022年1月19日水曜日

流行り病禍で気が付いたこと


先日の日曜日に家内と半日ほどドライブに出かけた。目標地点は、道の駅「神明の里」であった。

前々日に妻が録画をしていた地方局作成のバラエティ番組で、広島県下のソースメーカーが製造している各ソースを色々な料理につけて味比べをしている内容で、なかなか面白い構成であった。番組で取り上げられた商品の中で「テングソース」というウスターソースがあり、なんでも三原周辺でしか流通していないようで、私的にはこのウスターソースに大変興味をそそられた。我が家にはウスターソースが置いていなく、普段使いは所謂中濃ソース(トンカツソース、あるいはお好みソースの類)であり、結婚後だからここ四半世紀はウスターソースを使ったことがなかった。

 昨今の状況下において、本来であれば内なる自粛警察が働いて休日を家で家の掃除なり洗車なりをして過ごそうかとも思っていたのであるが、私以上に出無精である家内が「人の少ないところで、ドライブに行きたい」「山よりも、海辺が宜し」というものだから、それではテングソースなるものを探しに三原方面にでも行ってみるかということになった。

 自宅から1時間余りで午後1時過ぎ、第一目標としていた道の駅「神明の里」に到着。同道の駅の駐車場はほぼ満車の状態であったが、施設内はごった返すほどの来客はなく、皆さま場所柄をわきまえておられるようで、咳・くしゃみをする人はなく、夫々に同行者とは小声で話していた。



 同施設戸外の展望台からは、三原から糸崎の市街地、そして三原湾と島嶼部の山々が遠望でき、大変よい眺めである。これまでに遊びや観光で訪れるとすれば、尾三地区と称されるこのエリアでは圧倒的に尾道ということになり、私にとってはこれまで縁の少ない街であった。しかし、こうして眼下に広がる街を見ていると、きちんと探してみると実は面白い店なり物産がありそうな気がした。冬の弱弱しい陽光を浴びながら、「三原もなかなかに興味深い街かもしれぬ」「さて、ソースはどこに売っているかいな」等とひとりぼんやりと考えていると、背後で家内が「そろそろお土産コーナーに移動するよ」と声をかけた。

 お土産コーナーに入ると、レジの真向かいに早くも件のテングソースを見つけてしまう。その真横にはイチロウ氏からいつか教えて貰っていたビンゴソースまでおいてあるではないか。ビンゴソースも広島県西部にはあまり出回っていない筈で、福山・尾三地域周辺でしか出回ってないのではないか?(あまりスーパーに熱心に通う方ではないので、正確な情報ではないのだけれど)。この際、テングソースもビンゴソースも購入して味比べしてみるかということにし、それぞれ一本ずつカゴに入れる。続いてお菓子・スナック類、お弁当類を眺めてみると、タコを題材にしたせんべい、クッキーなぞのスナック類、タコ飯、タコ天をメインにしたお弁当などが数多く取り揃えていた、そう云えば三原がタコを名物として売り出しているのは以前どこかで聞いたことがあった。生鮮食料品の棚には、島嶼部で生産された柑橘類の他、ジャガイモなどの地元の新鮮な野菜。海産物コーナーには、鯛、タコの他にマゴチそしてタモリなる魚が陳列されていた。特にタモリとこの地域で呼ばれている魚は大変興味深く買って帰りたい気分になっていたのであるが、夕餉の献立は既に決まっていたため、この日は断念、次回のお楽しみとした。

 そして最後に酒類コーナーを見ると、私が好んで購入する銘柄「酔心」が陳列されている。そのボトルのラベルを確認したところ、おや、酔心は三原の産だったのか!と気が付く。これまで他の地方産のお酒よりも身体に馴染んでいる水で作られた広島県産のお酒を選び、その中でも「酔心」を好みのひとつとして愛飲して来たのに、うかつにもこれまで三原産であることに全く気が付いてなかった。呑んで旨ければそれで良しとし、ちゃんと生産会社まで確認していなかった。己の節操のなさ、単なるアルコール好きであること気が付かされて何とも言えぬ気恥ずかしさを覚えてしまった。酔心山根本店さん、誠にすみませぬと心で念じ今晩の夕餉の御伴にと、一本カゴの中に入れる。

 一通りお土産コーナーを巡り、夫婦それぞれにお目当てのものを購入後、クルマに戻り妻が昼食用に購入した三原名物のタコ天とタコバーガーを食す。タコ天は期待以上にタコの身がぷりぷりとしており誠に美味、そしてタコバーガーもタコ入りのパテがしっかりとし、新鮮なトマトの酸味と相性よしで、大変美味しかったです。



 三原名物のタコ料理、今回は購入しなかったけれど今や全国的ブランドになった「八天堂」のクリームパン、今日眺めてきた三原周囲の生鮮食料品、生産品、酒類にしてもこの地域の物産の豊かさには感動した。会ったことはないけれど生産者の皆さんの努力なり情熱なりを感じられ大変感銘を受けた。広島県に生まれ育って早や半世紀以上になるのに、これまで全く知らなかった。三原は実成も良い土地柄であり、目の前にはたくさんの魚介類が得られる豊穣な海があるし、それらを魅力ある物品に加工する生産者の皆さんもよく努力されているようで、とても良い街のようだった。

 出来れば、旧市街地を彷徨しあれば鮮魚店を覗いて廻りたかったが、事前の情報収集不足であることや生憎の休日で鮮魚店もしまっているだろうと判断し、三原駅前をぐるりと一巡し後に帰路に着いた。

 自宅への帰路は、家内の希望で海辺の道・国道185線を選択する。三原から忠海、竹原、安芸津などを経て呉方面に向かう道筋で、学生の頃暇な時間を利用し何度かクルマで走ったことがあった。この度30数年ぶりにこの道を辿ってみると、映る景色は記憶に薄く新鮮であった。左手に弱い陽光を浴びた島影は何とも美しく、助手席に乗る家内も「広島に20年以上住んでいるのに、知らないところだらけだったわ。探してみたらいいところあるんだねえ」などと写メを数枚撮っている。そうなんだよね、広島にはまだまだ知らない良いところ沢山あるんだよね。



 竹原市街地を過ぎる頃に、ふと思い出したことが有って、ここまで来たのならば是非寄って帰らねばならぬお店があった。イチロウ氏に教えて貰った安芸津にある中古レコード店「This Boy」さん。途中飲料水購入目的に立ち寄ったコンビニで、同店の所在地を確認し、安芸津を目指す。

 同店は、JR安芸津駅近く、県立安芸津病院の近隣にあった。3階建ての建物に道路に面した1階の部屋と奥の階段を上り2階に店舗があった。案内に2階が店舗と書かれていたので2階に向かうと店舗の入り口に1階で声をかけて下さいとある、ではと1階の部屋にもどり店主らしき男性に「2階の店舗を見させてほしい」と伝えると、店主らしきヒトがニュートラルな感じで案内してくれた。「ここは貴重盤もおいてあります。どんなジャンルをお探しですか?」などと声かけてくれたのだが、当方特にお目当てがなく「一応JAZZですかね」と伝えると、やや大ぶりなしぐさで「この辺です」と陳列棚を指し示してくれた。



 しばらくJazzLatin系の旧盤を探っていると、店主の男性がターンテーブルにファンキーなナンバーをかけ始めた。アップテンポのノリの良いリズムに分厚いホーンセクションの伴奏にハスキーなvocalが流れだした。モータウン系かいなと頭の片隅で想いつつ、私は気になるレコードを出しては仕舞いの動作を繰り返していたのだが、先ほどから流れてくるvocalが気になり始めていた。これはひょっとしてSammy Davis Jrちゃうの? こんなファンキーなmy wayは聞いたことなかったな たまらずターンテーブルに近づき展示されていたジャケットを見ると、やはりSammy Davis Jrのアルバムだった。長年来のファンだったのであるが、これまで満足に彼の音源を集めることが出来ていなかったの。幸いにもこの盤にはプレミア価格はついてなく、新譜LPの半額程度の値段設定。この機会は逃すまじ!



 店の片隅で梱包作業を続けていた店主に、「これサミー・デイビス・Jrだったんですねえ。超カッコ良いですね。貰う事出来ます?」と尋ねたら、店主も「そうでしょう。一応B面も聴かれます?」等と満面の笑みを浮かべて応じてくれた。「ジャケットもとっても恰好良いでしょう」と言われて多少返答には困ったが、演奏内容は素晴らしくLP上の傷も雑音も認められなかった。レコード屋に行って、図らずも良い内容の音源に出会って、勧める店主も購入者も笑顔で交歓できる体験なんぞは、学生時代以来だなあ。

ちょっとした幸せを感じながら、その他に選んだLP2枚も併せて会計をお願いすると、店主は私が選んだ他のLPもチェックしながら、「この2枚のLPともまだ未使用のものですねえ」良いものをチョイスしたと言わんばかりに言葉を添えてくれる。但し提示価格は2枚とも新譜LP価格以下のもので、大した銘盤を選んだわけではないが、悪い気はしない。このお店の所蔵し流通に乗せる中古のLPCDの大半はネットで取引されるようであり、本当に銘盤やプレミア盤を得ようとするのであれば、これまたネット上にある同店のホームページを検索し購入するのが最良に違いない。ただ当方としては、今のところ新たに手に入れたい音源がない/若い頃程音楽を聴く情熱がなくなってきているのかもしれないけれど、レコード屋に行ってあれこれと当てもなくCD/LPを探る貝掘り行為に楽しみたい性質であり、この度の同店への訪問で十分にその歓びを味わうことが出来た。店主さんには、どうぞネット通販で儲けていただいてこのお店を続けて貰いたいなと心から想った。店主に「また、寄らせて貰います」と伝えて、This Boyさんを後にした。



 安芸津から安浦地区、黒瀬、熊野地区を経由して自宅への帰路に着く。

 なんだか図らずもいつも以上に満足を得られたドライブだった。先ほど妻が呟いたように、これまで広い意味での地元の事・広島のことを知っているようで全く知らないことがまだまだあるのだという事に気が付かされた。

 ここしばらく流行り病のおかげで、仕事の負担は増えるがそれに反比例して実入りの減少の危機を感じつつ、私生活においてはおのずと制約が増えて、外食機会や県外への旅行機会も皆無に近くなった。時折、半ばジョークで「しーらない街を歩いてみーたい」などと歌い、乾いた笑いをしてみても、心の何処かで重たいものが払拭出来たわけではなかった。

 以前のような遊びや楽しみも流行り病のおかげで出来ないし、現時点では終わりは見えてこないのだけれど、今回の体験で心に刻まれたひとつは、『こんな時期だからこそ自分の身の回りあるもの・見落としていたものをしっかりと見つめ直して、そこに歓びを見出す作業を今のうちにやっておこうか』ということだった。そう思い直してみると、なんだか心の滓がすーっと消えていくような気がして心が軽くなるのであった。

 


おしまい

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