10月9日、前日にイチロウと連絡を取り合い、急遽周防大島に遠征することになった。
以前より、イチロウとの間でどこかのタイミングでこの島を攻略せねばという話になっていたのだが、互いの予定が微妙に合わず見送られていた。
この度は、互いに家庭状況からその日は夕方までの半日がフリーとなることが判り、「せっかくだから」ということで、同島への遠征を即決。
同日午前7時にイチロウ宅へクルマで迎えに行き、自転車を積み込み、出発。広島五日市インターから山陽高速道を使って西下、山口県玖珂インタ―から高速道を降りて、県道437号を使い南下、周防大島を目指した。
私にとって、山口は隣県なれども縁の薄い土地であり、車窓から見える景色は物珍しかった。岩国、山口は夫々に“名は体を表す”で、広島とは山塊の形成が違い、険しい山々の谷間を縫うように道路が走っていた。周防大島に向かう県道沿いには、左右に小高い山がありその際まで田圃が作られ、ガスが立ち込めていた。道路なだらかなアップダウンを繰り返しながらも下り基調で、「この道も自転車で走ったら、さぞ走り甲斐があるだろうな」「もっと山口県のコースを開発する必要があるよね」などと、ふたりとも早くも“乗りバカ”全開モードになっていた。
私たちが往く国道は一度盆地に下りたところでやや険しい上り坂となり、それを上り切って三叉路の交差点にたどり着くと、前方に明るい青空とその下に瀬戸内海(伊予灘)が見渡せた。三叉路の交差点を左折し道に沿って右折すると高い橋脚を持つ橋に差し掛かった。左右の眼下にはさざ波の立った早瀬が見え、多数の船尾に帆を掲げた小さな釣り船が揺れながら浮かんでいた。
私は子どもの頃に、叔父に連れられて釣りに一度だけこの島に来たことがあった。この度の来島は40年ぶり、波に揺られながら浮かんでいる釣り船を観ていると脳裏に当時の体験が蘇り懐かしさが込み上げてきた。やはり秋の晴れた日に訪れて釣り船に乗せられて鯛釣りをさせてもらったっけ。そういえばスナメリが数頭ゆったりと泳いでいたな。
あの頃と変わらずこの島は、釣り番組でしばしば取り上げられるほど、釣り人にとっては人気の島なのだろう。
この度は、突然周防大島遠征が決定されたものだから、この島について事前学習が出来ず、その他の予備知識が余りない。私にとっての周防大島に関する知識と言えば、釣りのメッカ、海水浴、そして村上水軍の一派が戦国時代終焉と共に毛利家から同島を所領として与えられて移り住んだことくらいか。
近年ではスポーツバイク愛好家がこの島の周回を目指してやって来ているらしい。スポーツサイクルショップ・ウエキのおやっさんの情報によれば「マサキさん、このコースは結構アップダウンきついっすよ」とのこと、隣でイチロウがおやっさんの声色を真似ながら笑っている。
午前8時20分頃、私たちは国道437号沿いにある「グリーンステイ・長浦」に到着。その駐車場の一画にクルマを停めさせてもらって自転車を下ろし出発準備に入った。
午前8時40分頃に、グリーンステイ・長浦を出発。国道437号に沿って時計回りに島一周を目指す。快晴で陽射しは明るいが空気はひんやりとし自転車で走しるには誠に気持ち良く絶好のコンディション。左手に海・安芸灘を観ながら海岸沿いを走行、所々にヤシが植えられ一見南国風に整備されていた。私たちは一路、島の東端にあるなぎさ水族館を目指す。
途中で、「道の駅サザンとうわ」「○○仏」「星野哲郎記念館」「宮本常一記念館」「ハワイ移民博物館」等々、立ち寄っても良さそうな観光施設あったものの、私たちは兎に角先を急いだ。それでも道路状況は、自動車の往来は少なく信号もなく、道は海沿いをほぼフラットに伸びているので、バイク走行は誠に快調で気分は上々。
イチロウなどは、安芸灘に浮かぶ島影を眺めながら、「お、あれは宮島か?」など知った名前を挙げるものの、そんなことはない筈で我々の知らない伊予諸島が見えていたのだろうw。
行く先々で、海岸に面した道路端から釣りに来た人達が釣り糸を垂れていた。中には親子連れもいてなかなか良い風景であった。
午前9時半頃になぎさ水族館に到着。休息を取るために浜辺の駐車場に下りてみると、浜辺に続く広場には多数のテントが張られて野外キャンプに子どもを含む家族連れの客で大盛況の様子だった。イチロウが「ああ、こういう時期が俺たちにもあったよなあ。ここに家族を連れてきても良かったな」などと言った。私は「あー」と曖昧な返事。うちの家族は海水浴もキャンプも嫌ってたからなあ。企画しても、「絶対嫌だ」と言ってただろうな。
水分とアミノサプリを補給して、再度出発。しばらく行くと国道437号は終わり、右折して小高い尾根を上り短いトンネルを抜けると、伊予灘を臨む斜面に出た。眼下に望む海は、光線の具合か、それとも水深によるものか、深い青緑色で何やら先ほどまでの明るい海景色とは趣が異なっていた。
道は右に曲がるカーブに沿って山の斜面を走る道(オレンジロードというらしい)と、そのまま真っ直ぐに降りて集落に続く坂道があり、すこし迷ったものの集落に下りる坂道を選んで下ることにした。
その坂道を降りると小さな入江に臨む由宇地区があった。狭い路地を右に曲がりクルマがやっと一台通れる幅の道がすぐに山際にぶつかって崎に沿って上り勾配となる。ふと左後方を振り返ると、険しい崖の斜面に佇む由宇地区が見渡せた。入江は深い群青色の水を湛えて天然の良港の様子で静かな入江風景に見惚れてしまった。それにしても崎の斜面に拓かれた小路は木立を縫いながらも険しく、山間部の新しい道路がない時代は、ここに住む人々がこの狭い山道を使って隣の集落まで通っていたのかと思うと頭が下がる想いがした。
ここから先は、崎の廻る山坂道と馬ヶ原地区、小浜地区といった海岸縁の集落を2-3通りながらの道程となった。左手には伊予灘を遠望しながらの走行であり、この頃になると日は高く上がり水面はエメラルドグリーンに輝やかせていた。崎の道は木立に囲まれて、急な斜面に囲まれた小さな入江にはコテージ、中には針葉樹を利用してウッドハウスが建てられてい、リゾート地として開発されている箇所があった。
そんな崎の斜面の山道と海べりのフラットな道を2-3繰り返した後、二車線の県道に合流し片添ヶ浜海浜公園にたどり着いたのは10時30分頃か。
片添ヶ浜海浜公園は、白砂の広い浜辺でヤシの木やフェニックスが植樹され南国風に整備されており、宿泊用の施設、公衆トイレ、シャワー室の建物を有す散策用遊歩道が備わった海水浴場となっていた。シーズンオフのためか、海岸に人影はなく静かであったが、海岸から県道を挟んだ山側の一画ではキャンプ用のテントがいくつも張られ、やはり家族連れが多数キャンプを楽しんでいる様子であった。
15分程度休息後、再び走行開始。これから島の南側を走る県道60号に沿って走る。先ほど前の山道とは違い、道幅は広く2車線道となる。これまでは誠に順調で、イチロウが当初イメージしていたよりも早いペースで走ってきたらしい。イチロウは上機嫌で、「いやあ、全くマサキと走っているのが気楽でエエわあ。ストレスないものねえ。こんな感じで諸国漫遊するかなあ。今度はコウイチのところに二人して出向いて、奴に何か称号を与えてやらんといけんねえ」などと、笑っている。
走りはじめて直ぐに、左カーブのなだらか勾配に差し掛かると、イチロウが笑いながら東野英二郎(水戸黄門)の声色を真似て「あそこに曲者が居りますぞ、助さん・格さんやっておしまいなさい」と言いつつ嬉しそうに上り坂道を攻め始めるのだった。
この先しばらく、崎をまわる登り坂でイチロウは同様の物まねをしては坂道を攻めるのであったが、次第に私は遅れ気味になり、「黄門様が率先してやっつけてしまうシーンなんてないはずなんだがな」と見えなくなったイチロウを思いながら苦笑いする。
この後、崎の山道を抜けると、左手に小さな島(沖家室島)かかる橋が見え、その真ん中でイチロウが待っていた。キラキラと海に浮かぶ小島になだらかなアーチは本当に美しい風景であったが、私は高所恐怖症が災いしゆっくりと楽しむゆとりなしw。イチロウの写真を撮って出発。
その後も再びイチロウを追う形で、崎の山道、崎が終わると海べりの集落沿いの平坦道が繰り返された。県道60号から出会う浜辺・集落にはそれぞれにお寺の甍が見えて、その形から浄土真宗の寺院と思われたが、夫々の地域の人々が古より信仰が厚く、地区のお寺を支えてきたのが判り、この島の物成りと海からの恵みが豊かであったことが偲ばれた。
アップダウンを繰り返しているうちに、すっかりイチロウの姿を見失ってしまった。ふたりで自転車で出張る時にはよく有ることであったのだが、こちらとしては、夏のトレーニングでそれなりに走行力をつけたつもりなのに、イチロウの脚力がそれよりもまだ上を行くことに改めて舌を巻く想いだった。
このオトコの坂を見ると火が付き、前方に他のサイクリストの姿を認めると追いつき追い越さずにはいられない“性”は一体全体なんだんだろうねw
イチロウも土地土地の風俗風物に人一倍好奇心や知識欲求は旺盛なはずなのに、そんな会話をする暇もなしw。兎に角大幅に遅れないようにこちらも急がねば…….。
11時30分頃、地区の名前は判らず仕舞いであったが、白木という郵便局のある漁港手前でイチロウが待ってくれてい、そこで休息と腹ごしらえをすることになった。
この漁港も高い山々に囲まれた入江にあり、天然の良港と思われた。波止場には、数人の釣り人が居るほかは静かな佇まいであった。コンクリートの岸壁から海を覗くと、無数の稚魚が泳いでいた。のんびりとした昼下がりで、シューズも脱いで疲労を感じ始めた脚をマッサージなどして休息を取った。イチロウと何を雑談したっけ?他愛もないことを話したか。島の南側の道路沿いには、食事が取れそうなお店がなさそうだなと話したか。
正午を過ぎて辺りは眩しいほどに明るく、左手に見る海の水面は光を反射してきらきらと輝いていた。
その後もひたすらイチロウの後を追いかける形で、走行を続けた。安下庄/竜崎温泉界隈がこの島の南側で一番大きな地区のようで、「この島に泊りがけで来る出のあれば、この辺りにしたい」と想いつつ、更に相好を続けた。海沿いの道は県道4号線に変わっていたが、相変わらず交通車輛は少なく信号もなし。
安下庄を過ぎて崎を廻る山坂道で、イチロウに引き離されてしばらく走行していると、次第に左前方に本土が見え始め、前方に周防大島大橋が視界に入ってきた。しばらく進むとバス停のベンチに腰掛けて小休止しているイチロウを発見。
イチロウ「なんだか予定よりもかなり早く俺たち1周してしまいそうだなw」
私「だからさ、あんた、飛ばし過ぎなんだよw」
イチロウ、うひゃうひゃと笑って、「でも、本当に気持ち良いなあ。ここ本当に良いサイクリングコースだよな。帰って良いブログ書けそうだろうw?な、マサキ!」
私「あのね、必死でペダル漕いで来たから、なーんにも覚えてねえ。旅情に浸る暇がないんだよう~w」「こんどから、アンタと出張る時はMR4を使った方が良いんじゃねえ?」
イチロウ、更に大笑いして「まあ、そう言うな。またここに来たいだろう?その時は、ちゃんと見るべきところをコースに組み入れるからさ……w」
全くこの度はタイトル通りの乗りバカになってしまっていたw
全くこの度はタイトル通りの乗りバカになってしまっていたw
水分と最後のアミノ酸サプリを補給し出発。大橋を目指して走行し、大橋を過ぎると最後のアップダウンを乗り越えて、ゴールである「グリーンステイ・長浦」に到着。到着時刻は午後1時20分頃。
走行距離;96.4㎞、所要時間;4時間40分(休息時間を含む)であった。
帰宅後、ルート・ラボで同じように周防大島を周回するコースを検索してみると、どなたかが過去にこの周回コースをトレースしてくださっているようであったのだが、その方の設定時間は6時間としていた。
それから見ると私たちの走行時間の短さはどう表現したものかw?
それから見ると私たちの走行時間の短さはどう表現したものかw?
-セワシナイw-
結論;
周防大島の周回コースは、適度な起伏があり全力で走るのも楽しいが、もっとゆっくり景色や観光スポットなどの風物を楽しみながらサイクリングを楽しむべしw
(終わり)
(終わり)
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