2017年6月6日火曜日

耐え坂・攻め坂


64日(日) 最低気温16℃、最高気温26℃、快晴



イチロウと午前中を利用して自転車で極楽寺山を上り、県道433号に沿って湯来町を目指し、そこから山間部を西に走り、大竹あたりへ下って来ようという計画を立てた。



午前630分に廿日市市内にある速谷神社付近のコンビニエンスストアを待ち合わせ・出発場所とした。



午前610分頃に、当該コンビニに到着。イチロウが来る前に、朝飯と水分の事前補給をしておこうと目論むも、15分にはイチロウ到着。「ジジイになると朝が早いわい」とお互いに苦笑い。



午前625分にコンビニを出発し、県道433号に沿って速谷神社前を通り登坂開始。山陽道の高架下を通り抜けると、本格的に勾配がきつくなる。「お互いのペースで上ろう」と声をかけ合い、私は先を見通して、ダンシングは控えて、ギアを徐々に軽くしていきながらペースキープに心がけるが、イチロウは早くも速度を上げて行った。



みるみる間にイチロウに引き離されて、カーブやループなどで姿が見えなくなる。これまでだったら、彼にちぎられると精神的なダメージを食らいモチベーションを多いに下げたものだが、この度は心もちが違って、タイム差がどの程度で済むかに興味を向けていた。



やがて老人入所施設横を通過し、道路はセンターラインが無くなり道幅が狭くなった。ここからつづら折りになるポイントまで更に勾配がきつくなる直線坂となる。ここはひたすら耐え凌ぐポイントで、つづら折りになって勾配が緩くなる地点までただただペダルを廻す。やがてつづら折りが続くポイントが出てくると、すこし脚にかかる負担が減る。廿日市市街や宮島が遠望できる箇所では少し気分転換が出来て精神的な負荷も軽減した。つづら折りが終わる頃になると、空が開けてピークに近づいてきたことが分かり、もうひと踏ん張りと気力を取り戻せた。



ピークに達したのは、午前734分頃、走行時間にして40分弱。自分としては、まずまずのタイムだったと思う。2度目の登坂ということもあり、コースをある程度記憶していたためコースの先が読めて精神的にかかる負担は前回に比して随分と軽かった。




ピークに到達したのは良いのだが、先行したイチロウの姿が見えず。先に到着したはずで、案外脇道を上って降りてくるのではないかと暫く待ったが、姿は見えず。“先に、坂を下り、何処かで待っているやもしれぬ”と思い、そのままその坂を進行方向に下って行った。しかし、里山風景、そして沢沿いの木立の中を気持ち良く下り、広い道まで降りたがイチロウの姿は見えず。



“イチロウは果たして何処に? あれ?ひょっとして何処か谷に転げ落ちてしまったか?”携帯に連絡を入れようとするも、「本人は電源を切っているか、電波の届かないところにいるか」などの女のヒトがいうものだから、“電波の届かない谷に落ちていたらどうするべ?”などの懸念した。



そんなことを考えながら、その地点でクルクルと廻わり路肩のコンクリートブロックに左足を着こうとしたら、ペダルが思うように外れず態勢を崩して、コンクリートブロックを跨いで歩道に向かって倒れてしまった。倒れる瞬間に“このまま倒れたら、綺麗なコーティングを施されたフレームに傷が入ってしまう”と思い、とっさに左手で歩道路面に手を着き、右手でフレームを持ち上げる我ながら器用なことをし、無事にフレームがコンクリートブロックに当たるのを回避出来たw。



立ち上がって、フレームが無傷であることを確認し、我ながらでかした!と思っているころ、イチロウが私が先ほど降りてきた道から登場。



彼曰く「つづら折りの最後の箇所で、分かれ道があって、私とは違う進路を選んだのだ」とのこと。その時はああそうかと思ったが、帰宅後地図を眺めてみると、私の方がルートを外れていたみたいで、イチロウが進んだ道が県道433号であり、山の西側から回り込んでくるルートが正しく、私は433号をショートカットをしてイチロウと再会したポイントに出たようだった。



心配したのは、むしろイチロウの方だったようだ。お騒がせして済みませんでした。



県道433号線はそのまま五日市から北西上に伸びる県道41号と合流するまで東に向かって伸びていて、私とイチロウはそのまま東に向かって433号を下って行った。先ほどまでの山中の極楽寺山登坂と下山の林間を走っている間は冷気が強く体が冷え切ったものだが、午前7時の陽光は明るく、私たちの身体を優しく暖めてくれた。下りに任せて流すようにペダルを廻しながら、気持ちの良い初夏の朝の空気をしばらく楽しんだ。



県道41号に入ると、左折しなだらかな勾配を再びしばらく登坂。交通量が多く左右にカーブした箇所を抜け、三叉路あるコンビニで一息入れた。

そのコンビニ前の三叉路を左に進み、南西に向かう県道292号に入る。ここからしばらく芸南カントリークラブ付近まで、緩やかな上り坂となった。勾配が緩やかなため登坂は苦にならなかったが、ここは所謂“攻め坂”で可能な限りハイピッチで進みたいところだった。イチロウがペースを緩めずに走行するため、必死で後を追う。誠に気持ち良し、再びイチロウに差をつけられたが、今の自分の持てる力を出してみる。



芸南カントリークラブ横の坂のピークでイチロウが待っていてくれた。イチロウ、追いついた私に向かって、「ここからは下り基調で、気持ちが良いよ。ご褒美の下り坂w!」と笑顔を示す。



その後のルートは、県道292号、42号を辿って大竹市内を目指していたのだが、なだらかな下りが連続し誠に気持ち良かった。県道292号では、左右に水の張られた水田風景が広がり、植えられたばかりの稲が風に揺らぎ、満々と張られた水面には日差しを浴びて青空が映し出しだされていた。

各地区の沿道では、各地区の人々が道沿いの草を手分けして刈っていた。梅雨入り前に、雑草を綺麗に刈りこんでおくのだろう。朝の爽やかな空気の中に刈られた草の青い匂いと草刈機から放たれる油の匂いが辺りに漂い、それも初夏の里山の風情だった。

里山で協力しながら暮らす人々の営みが垣間見えてある種の感銘を受けたのだが、道端で作業をしているヒト達にこちらから「おはようございます」と挨拶をすると、夫々に元気な声で「おはようございます」と会釈を返してくれた。



“初夏の朝というのはなんと新鮮な生命力に満ちた世界なのだろう。早起きして出て来た甲斐があったものだ。”と、左右の里山風景を眺めながら独り満足に浸っていた。



県道292を左折し県道42号に入って間もなく、前方から御揃いのサイクルジャージを着た4人組のグループとすれ違った。車列を隙なく整えてそこそこのピッチで走行し、見るからにただならぬ気を醸し出しているグループだった。こちらから挨拶を送ると、気合の入った会釈を返してきた。“逆方向でエカッタw!”恐らく大学か社会人のクラブの練習走行なのだろう。これから向かう大竹市内から坂を上ってきたのだろうか。

その後も、県道42号を下って行くと、何人かのサイクリストが坂を上ってきた。時刻は午前8時を回った頃で、サイクリストが動き始めている様子。42号はやがて渡ノ瀬貯水池という大きな池の傍の狭いに道に入ったが、行き交うクルマは少なくリラックスしながらペダルを廻し続けた。

この貯水池を通り過ぎる頃、再びちょっとした登り坂に差し掛かる。気が緩んでいたせいか上り坂の出現に少し慌てて気合を入れ直しペダルを廻して上り切ると、そこから大竹市まで幅広い下り坂となった。脚を休ませ、自転車が重力に従ってスピードが増すままに任せ下って行った。途中で、先行したイチロウが一度平坦になった箇所で私を待ち、今度は私が先行する形でタンデムを組んで、大竹市市街地JR玖波駅付近まで降りて行った。二つの山の稜線間を通る道を降りてくると、次第に視界が開け、眼下に大竹市街地と瀬戸内海が見えて来た時はちょっとした感動を覚えたな~帰還!~。



イチロウはウエキのおやっさんに輪行バックの件で相談、私はタイヤ交換をしてもらってすこぶる乗り味が良くなったことを報告するという目的を作り、大竹市内にあるスポーツサイクルショップウエキに立ち寄る。午前9時より5分前程度に店に到着。



イチロウは早速輪行バックについておやっさんと相談し始めたので、私も傍らでそのやり取りを聴く。おやっさんからはイチロウの要望を勘案して、シリコン製のバック長さ100㎝×高さ80cm×幅(聴き忘れたw)を提案、前後輪を外すだけで良く、フレームもしっかりと固定されるために傷をつける心配がないよと提案あり。飛行機に乗せるには優れものでなかなか魅力的なものだったけれど、新幹線に持ち込めるか?用がない時にどこにしまっておくか?などの疑問が残った。

私は、おやっさんとお兄さんの夫々に前回のタイヤ交換によって、本来の乗り味の良さを十分に堪能出来て喜んでいるという旨を伝えてお礼をいった。それからお兄さんとしばし雑談、県道42号には結構沢山のサイクリストが登坂してきた様子を伝えると、彼曰く、この辺りのサイクリストは42号を使って練習しているのだが、今日などは2週間後に宮島トライアスロンが開催されるので、恐らくそれにエントリーしているヒト達が練習に出ているのだろう事を教えてくれた。



“そっか、あのただならぬ雰囲気を醸し出していた4人グループは、トライアスロンに向けて練習していたのかもね。ヤベーところに出くわしてしまったな。進行方向が逆で良かったw”



30分程度ウエキで雑談した後、引き上げることにした。暫し宮島街道を海沿いに走ったのだが、すっかりと日は上がり海面がキラキラと輝き、暖かい海風が吹いていた。交通車輛が多くて面倒くさかったけれど、初夏の海風景もなかなか気持ちを浮き立たせるものがあり気持ち良かった。JR大野浦駅手前から、宮島街道の旧道に入りポタリングとする。



イチロウ「気持ち良かったなあ。まだ、走りてえなあ。」午後から家の用事をすると彼に伝えている私に向かって「そんなにお前は家が好きなんかw? しょうがねえな全く。俺と走ってた方が楽しいぞ」と笑っている。私は苦笑し「やれねばならないことがあるの!」と返すのがやっとだった。あまりにも気持ちの良い天気で、サイクリングには最適だった。タラタラと初夏の陽射しを浴びながら自転車を並べてそんなやり取りをしているとまるでマークトゥエインの小説的世界を連想させ、彼の楽しい誘惑に負けそうになったが、そのままスルーするのが正しいやり方だった。



雑談しながら裏道を広島市内に向けて走行し、阿品台手前のコンビニで最後の小休止。水分と甘い物を補給しながら、本日のちょっとした反省会。坂道でのお互いの健闘を「スゲースゲー」「なかなかイケてた」等と讃え合いながら、「次はどこさ行くべ?」と次の走行ルートの話題になった。次回も耐え坂と攻め坂が適度に味わえるコースが良いな。



しっかりと休養を取って、強くなった陽射しの中を帰路に向かう。阿品台を横切り西広バイパスに突き当たるとそれを横断し、廿日市駅裏を通る裏道に向かった。毎回、西に出て東に帰る際にはこの阿品台を横切る坂道を上ることになるのだが、いつもであれば疲れた脚には相当応えるはずの坂が、この度は然程苦にならず。“こんにゃろ!”とペダルを廻しそこその勢いで上る。もうこの程度の坂ではひるまないよw イチロウにとってはゆっくりとしたペースだっただろうが、私の登坂スピードは彼が持て余す程には遅くもなかったであろう。彼はゆっくりと私の後をついて上がって来た。



その後、西広バイパスを横切って、JR廿日市駅付近を国道2号線と並行して走る新しい道を通る。ここは、片道2車線でなだらかなアップ・ダウンがあるのだが、交通車輛が少ないため、自転車乗りにとってはストレスなく飛ばせるポイントになっていた。イチロウも気持ち良くスピードを上げ始めたので私も食らいつくように後を付いて行った。信号のストップ&ゴーの際に、イチロウが隣に停車したおっちゃんバイクを意識していることがその後ろ姿から窺えたので楽しみにしていたが、イチロウがスピードを上げ始めた途端にそのおっちゃんは右折してしまった。明らかに気を削がれた形になったイチロウはすこしペースを落としたので、それを後方から窺っていた私が全速力で彼を抜かしてやると、後方で大笑いをしている声が聞こえた。



その新道が終わって左にカーブしながら道が細くなったところでスピードを緩めると、直ぐにイチロウが追いついて、「しまった、しまった。やられた。でもちぎられるとものすごく愉快だな」と大笑いしていた。私も先ほどから笑いが堪えられず、ガハハと笑い返した。



それが、その日の二人走行会のフィナーレ。最後に子どもっぽい戯れをして、お互いに楽しい気分のまま別れた。



私は、午前11時少し前に帰宅。家にたどり着いてみると家内は朝の支度中だった。特に何も聞かず、早速何時もの調子で午後からの予定を伝えてくる。電気屋とスーパーへの買い物、その後庭の草取り。「はい、はい」と応じ私は完全な家庭モードに入った。



「こやつ、旦那がどんなに素晴らしい世界を見て来たか、全く知らないんだろうな…..」シャワーを浴びながらそんな事を思ったが、「初夏の朝の里山風景や朝の陽光を浴びて輝いている瀬戸内海の風景が素晴らしく良いぞ~なんて言ったところで、それに共感する奴なんざそんなにいねえか?」「せいぜい私と先ほどまで居たもうひとりくらいか」と思い直したら愉快な心もちで満たされた。




その後は家庭の用事をしながら過ごしたのであったが、その夜夕食を終えて寛ぎながら、スマホでF.Bを眺めていたら、タカヒロの投稿が私の目を惹いた。なんでも地元のサークルでトライアスロン大会に向けての練習会に参加したとの事。泳いで走って、最後にバイク。流石タカヒロはタフネス野郎である。

「バイクでは激坂をヒイヒイと言いながら上った」と書き記されていたので、思わずコメントを入れて、こちらでも宮島トライアスロンに向けて坂道をバイクで上っているヒトを幾人か見かけたよ」など伝えたら、彼が返すに「下り坂は気持ち良いからいいけど、登り坂は絶対嫌だぞ!平坦な道しか走りたくないな。だからその提案却下w。」とのことだった。



彼は、この23年の間にトライアスロンに挑戦し始めていて、体力的には私の遥か数段上を行く男なのだが、上のセリフどこかで聴いたことがあるなあ~w。そう、つい数か月前までの私と同じことを言っているではないかw!



“そうなのだよ、下り坂は本当に気持ちが良い。ただ、その気持ち良さを味わおうと思ったら、どうしても先に坂道を上らないといけないんだよなあw。”“アイツのことだから、そのうち上り坂の楽しさもじきに知るに違いないだろうな。そして「地元のサークルの人たちとどこそこに上ったよ」と満面笑みの写真を添えてF.B.に投稿してくるのだろう。



彼にはそう伝えなかったが、上のような展開が先に待っていそうで、そう思うととても楽しみになってきた。



そうだ、ここにもう一人、坂道を目指すオトコがいたのだった。そう思うとなんとも愉快であった。



(おわり)








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