梅雨前線は、いつの間にか太平洋高気圧の張り出しの影響を受け、日本列島南東の太平洋上に移動したようで、その隙間に台風からの湿った空気が侵入してきて、ここ2-3日は気温がいきなり30℃を越える蒸し暑い日々がやって来た。夏本番までもう少しという気配で、夏大好きオトコにとっては意味もなくうきうきとした気分である。
その後も、「独りJobim祭り」を継続し、夜な夜な独りで楽しい時間を過ごしている。
この度の「Jobim祭り」の目的のひとつに、「Matita Pere」(1973)を聴くというものがあり、インターネット通販サイトでポチって取り寄せようとしたが、大手2社には在庫がなく、メーカーに発注をすることになったのであった。ただ、これまでの経験で多分手元にはいつまで経っても届かないことになるのが容易に予想出来たので、“やむを得ず”i-tune storeからDLをすることにした。同ストアを開いてみると、その豊富なラインナップに驚く。胸の内のざわつきを抑えつつ、取りあえず同アルバムをDLした。
i-tune storeのラインナップに触発されて、“この際、Jobim名義のオリジナルアルバムは一応揃えてきたいと欲望が湧いて来たのだが、コンピレーションアルバムなどでの重複は避けたいと思い、イチロウに相談すると、「そういう事であれば、トム(Antonio Carlos Jobim)の伝記があるから、それを見れば巻末にdiscographyが載っていたはずだから、それを参照すれば良いではないか」と答えた。
「なぬー、そのようなモノがあったのか」と嘆息し、早速これもネット通販サイトでポチって手に入れることになった。
この本、「アントニオ・カルロス・ジョビン ~ボサノヴァを創った男」Helena
Jobim 著、国安真奈 訳(1998年)というもので、トムの妹エレーナによって著されたトムの伝記である。
「エレーナとトムの最後の日々」の章から書き起こされ、彼らの家系のこと、トムの出自と幼少時代、作曲家としてのデビュー、その後のキャリアとその生涯について、ある時には客観的に、ある時には妹からの視点として詳しく綴られている。書き手の優れた技量と名訳のおかげで、読んでいて夢中になり誠に楽しい。彼らの家系の事(特に母親方の親族との濃密な関係性)、彼が幼少期よりリオ周辺の自然を愛し、ブラジルにまつわる神秘性に対して親和的な思考の持ち主であったことなどが記されていて、読み進むにつれて、まるで「ある神話」を読んでいるような心持ちとなった。
このたび祭りでは、「Matita Pere」(1973)、「Urubu」(1976)の2作品が、個人的に大変気になっていたので、その制作背景を知りたくて、まずはその辺りの記述を先に読んでみた。
自費でレコーディングしたというこの2つのアルバム作品では、# 1. Aguas de Marco, #2. Ana luiza, #3. Ligiaなどの美しい曲もあれば、交響詩と呼べるようなダイナミックな楽曲も収録されていて、作家としてのエネルギーの充実ぶりを感じされられたりしたものだ。
この頃のトムは50歳前後にして、仕事上では大いに充実していたようであるだが、一方で長年に亘る音楽出版会社側との間での著作権をめぐる交渉、末梢性動脈閉塞症の症状が発現による健康上の不安、そして家庭的には20数年間連れ添い仕事上において良き理解者であった筈の妻・テレーザとの不和が決定的になるなど強いストレスに晒されていたようだ。ほとんど自宅には戻らず、大量のアルコールと葉巻を呑み、バールで寝泊りをするなど、彼個人の精神状態は危機的な状況にあったようだ。
この2つのアルバムにおいては、よりブラジルの土着性・自然への憧憬、そしてより内省的な精神性への回帰志向を感じていたのであったが、上記のような初老期に向かう彼個人の背景を重ね合わせてみると、彼の個人史的なルーツへの思索としての側面もあったのではないかと思われる。この作品に込められた彼の想いを連想する時、強いパッションを感じるのであるが、その感想を安易な言葉を当てはめることに躊躇を覚える。アーティストの持つ深い精神性に対して、否、アーティストだけではなくヒトの人生の重みに対して畏敬の念を感じずにはいられなかった。
その後、私は、最初からこの本を読み始めて、現時点では音楽家デビュー、ヴィニシウス・ジ・モライス、ジョアン・ジルベルトとの出会い辺りまで読み進めてきたところである。毎夜、A.C. Jobimのアルバム作品を聴きつつ、その“神話物語”を少しずつ読み耽けっている。なんと幸せな事なのだろう。久しぶりに夢中に読める本に巡り合った。
この度新たに購入したアルバム作品(前回に記したものに続いて)は、「Orfeu Da
Conceicao」(1956)、「The Wonderful World Of Antonio Carlos Jobim」(1964)、 「Matita Pere」(1973)、「Caymmi visita Tom」(1965)、「Miu E A.C.Jobim」(1977)、「Miucha E Tom Jobim」(1979)、となった。
鬱陶しい梅雨の間を楽しむために始めた“独りJobim祭り”だった筈が、前述した本に出会う事によって、その予定を大幅に変更せざるを得なくなった。
と、いう事で、“独りJobim祭り”を改め“独りJobim回顧月間”とし、「アントニオ・カルロス・ジョビン~ボサノヴァを創った男」を全編読破し再び手持ちの全アルバム作品を聴き直すという作業をこの夏の楽しい目標としたい。
~取りあえず、“惚れた者の弱みでして”シリーズはおしまい~
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