2015年6月16日火曜日

頭の中はわさわさと・・・・・・。


前の週に急遽、512日に東京で開かれる会議を覗いてくるようにとの業務命令があり、前日11日に職場を早退し、午後552分発の「のぞみ」に文字通り飛び乗った。

 


指定席に着くと、何時ものごとく飲み物・弁当、そして単行本1冊をテーブルに乗っけて用意は整った。新幹線が定刻通り発車すると、缶ビールを開けて本を広げて読みだしたのだが、此度の旅行中の「課題図書」は少々私には苦手分野というか食わず嫌いの純文学作品で、読み進めて行くには大変苦労した。

 

 
 
 
その作品は、三島由紀夫の「潮騒」。これまで三島由紀夫の作品を一度も読んだことがなかった。文学に疎い私としては、彼の作品に触れる前に、彼の言動や行動が「昭和の事件史」としての世間的記憶に刻印されてしまったこと、耽美的と評論される作品群の評価に間接的に触れたせいもあって、これまでは半意識的に敬遠してきた。今年の4月ころだったか、三島由紀夫について取り上げたニュース番組を2度も見ることがあり、そろそろ自分なりにきちんとその作品と向き合ってみる必要があると心に決めて、本屋に行った際に適当に当たりを付けて2冊ほど購入したのであった。ただ購入してからも読み始める決心がつかず、ずっと鞄の中に入れたままにして回避しきた。

 

そして此度の出張中でまとまった時間を確保出来そうであったので、取りあえず1冊は読み切ってしまおうとこの「潮騒」を開いたのであったが、私的には少々期待外れで、後になって、この作品が三島作品の中でもちょっと特異な位置にあることをイチロウから教えられ、ため息を付くことになった。

 

ビールを一本開けたところで、次にハイボール缶を開けて弁当をつまみに呑みつつ、「潮騒」を喘ぐような心持で読み進め約半分読み終えた頃に、東京駅についた。時刻は、午後10時前だった。

 


有楽町までJRで移動し、地下鉄有楽町線に乗り換えて築地界隈にある某ホテルへ直行。ホテルにチェックインしたところで、すこし元気を取り戻し、折角だから近場の寿司屋にでも行こうかとも思ったが、サイトマップを見ると私が当てにしていたお店はもう既に閉店している様子であったのと、当夜の天気は雨が降ったりやんだりの状態だったので、潔く諦め、ホテル横にあったコンビニでアルコールとおつまみを購入し部屋で独り酒盛りと読書の続きをすることにした。
 
 
 

 

「潮騒」との格闘を再開したものの、どうもこの作品がしっくりと馴染んで来ない。この作品を綴っている文体が、果たしてあのドナルド・キーンさんが大絶賛したほどの美しい文体なのかどうか。どこかぎこちなく感じさせる物語の構成(流れない感じ)・設定が先にあるようで(ああそうか、戯曲ぽいのか?)、アルコールを呑みつつもなんだか程よく酔えなくて、そのうち妙な疲れが溜って来て、いつの間にか泥のように眠り、目覚めたのは翌朝650分頃だった。

 

予定された会議は午前10時から大手町の某ホテルで開催されることになっていたので、ゆっくりとシャワーを浴びて、テレビニュースを1時間ほど観て、午前9時過ぎにチェックアウト。再び有楽町まで地下鉄で戻り、都営三田線に乗り換えて大手町まで移動。地下通路を辿って会議場所のホテルに着いたのは、午前930分頃だった。

 
 

このホテル、実は以前にも来たことがあって、その時はイチロウとはとバス観光をして遊ぶのに前日宿泊したことが有った。もう10数年前の話で、その時は昭和の面影を残す古びた建物であった。ちょっと意外で残念な気持ちにさせられた印象があったのだが、この度来ていみると多分丸の内界隈の再開発に合わせて建物を新築しリニューアルオープンされたのだろう、都会的に洗練された建物になっている。立地している環境と建物が見事に調和していて、地方から出て来た者としては大変喜ばしい。意味もなく嬉しくなって晴れやかな気分となった(この辺り我ながら能天気だと重々自覚している)。

 

午前10時から始まった会議は、2-3の大切な情報を私にもたらしたが、午後2時過ぎには重要な議題は済んでしまい残すところは役員の信任選挙となったため、午後4時にお開きになる予定のところを私は230分に退散することにした。

 

帰りの新幹線は午後62分発の指定を取っていたので、十分に時間が余っていた。

 

「さて何をするべか?・・・・・・・」しばらくホテルのロビーでぼんやりと思案していた処、思い出したのが「ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション」だった。大手町からだと地下鉄・半蔵門線で二駅目の水天宮駅界隈にあった。我ながらのグッドアイデアを持ったものだと歓び、早速同コレクションに向かう。

 


浜口陽三さんの作品に出会って約10年は経つか。旅行先の美術館で偶然に知り、忽ちその作品の虜になった。浜口陽三は日本を代表する銅版画家で数々の国際的な賞を獲得され、国内外で人気の高い作家である。メゾチントという手法を用いて生み出された作品は静謐さのなかにも、秘めたパッションが感じられ、観る者を釘づけにすると思う。漆黒の中にぼんやりと赤など暖色系で浮かび上がる「さくらんぼ」「蝶」、或は月のように浮かんでいる「クルミ」や「毛糸玉」などが印象的、その他にもアスパラガスやブドウなどをモチーフにしたものや、「巴里の屋根」「突堤(だったかな)」風景をモチーフにしたものがある。
 
 

 

この「ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション」は小さなギャラリーで多分その収蔵作品にも限りがあるだろうが、それらの作品を眺めていると静かな安らぎを感じ、ささやかな充足感を得ることが出来る。この度は、「浜口陽三・丹阿弥丹波子 二人展 はるかな符号」と題した特別展が開催されていた。

 
 
 
 
 
 
 

 
丹阿弥丹波子という作家はこれまで知らなかった。やはり銅版画家でメゾチントの手法で制作した作品を展示してあった。このヒトの作品も凄い。植物とグラスを題材にした静物画をモチーフにした作品が特に目を惹いた。植物の茎・葉脈まで克明に引かれた線、グラスの底で反射した光の線など、銅板を削りながらこれらのラインを入れていく作業(過不足なく線を刻印していく作業)を想像すると、その作家の情熱というか精神性に畏敬の念を抱かずにはいられない気分になった。



 

この度この小さなギャラリーを訪れたのは3度目であり、見慣れた分感動も少ないのではないかという予想は良い意味で裏切られ、期待以上の幸福感を得られた。これからもこのギャラリーにはやってくるだろうな。

 

 
 
 
 
 
 
すこしこのギャラリーの喫茶コーナーで休息を取り、午後5時すこし前に地下鉄を使って東京駅まで戻る。八重洲口地下でお土産を物色し2-3購入した後、あるビアホールに入り、独り打ち上げをする。

 


独りで東京に出て来てくると、用事なり遊びなり歩き疲れて何処かで食事兼休息を取ることになるが、気の利いた店に入りたいのだけれど、結局は見つけられず仕舞いとなり、目立つ佇まいを持つこのようなビアホールに最終的には入ってしまう。そして、ジョッキに入ったビールにソーセージだのポテトなどを頼む。周囲には大概にしてサラリーマンのグループが機嫌よく何やら勢いよく駄弁って飲み食いしている。それを当方は毎度毎度眺めては、勝手に疎外感を抱いている。ビアホールなんぞ決して独りで入るところではないのだが、毎度そんなことを20代始めから繰り返してきた。サラリーマンのグループの様子を垣間見ながら、何時も思う事があって、それは「あの機嫌よく呑んでいるグループには、今までにも入れなかったし、これからも入ることはない」ということで、独りで歩き回った後の疲れに酔いも手伝って、訳の分からない社会的マイノリティー気分や引け目を感じていたのであるが、この年になってくるとそのような理屈にならぬ鬱屈した気分からは卒業したようであり、遅ればせながら改めて、自分の居場所を確認したような心持であった。

 

そのビアホールを出た後は、飲み物とお弁当を購入すべく某デパ地下のお惣菜コーナーをうろついたのであるが、商品とそれを求めるヒト達の賑わいが大盛況で本当に凄いことになっていて、私もつられて物欲・食欲全開状態となったのであったが、泣く泣く2点に絞り夕食を購入したのであった。一点目は一際目を惹いたマグロのお寿司の詰め合わせ;これは昨晩のリベンジ、そして天麩羅の盛り合わせ。

 

そして帰りの新幹線は、独り打ち上げの2次会と「潮騒」の後半戦に立ち向かうことになった。途中で、つい音を上げてしまい、イチロウに「潮騒」が分からぬと打電すると、暫くして返信があり「そりゃそうだ、三島作品に取り組むのであれば“金閣寺”“豊饒の海”“仮面の告白”辺りから入っていかないといけないだろう」とのことであった。元文学少年だった彼が云うのだから、そのとおりなのだろう。まだ三島由紀夫に出会う事すら出来ていないのかとがっかりとした気分となった。

 

“それでも”と思い直し、「潮騒」と決着をつけるべく読み進めた。意外にも予定調和的ハッピーエンドw。何の陰りもない朝の連ドラになりそうな展開とその物語の完結。解説を読むと、「ああなるほど」と思えた。取りあえずこの作品の感想は保留として、イチロウから示唆された作品をまずは読んで行こうかと思った。

 

一体東京に何をしに行ったのか?

 

三島由紀夫の事始めの出だしが少々間違ったことの確認、浜口陽三との再会、そして丹阿弥丹波子作品の個人的発見。そしてひたすら頭の中で独り駄弁り・潜在的な軽躁状態。

 

ああそうか、優れた芸術作品に触れたおかげで、己の精神が掻きむしられたような状態になっていたのかもしれない。
 
おしまい

 

 

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