この絵は、私がとても愛している風景をある作家さんに依頼して描いてもらったものである。私のような市井に暮らす名も無き者が、自分の愛している風景を描いてくれと作家に注文し、その絵を実際に手にすることができるなんてことは、人生の中でそうそうあるものではない。それはとても幸せなことだと思う。
作家は、Nick KANE氏。広島在住の英国出身のアーティストである。その経歴や作品の一部については、ネット上で簡単に検索できるので、興味のある方はぜひ検索してみて欲しい。私の友人と親交があり、数年前にこの方の水彩画を2点ほど購入させてもらった。それぞれにイタリアの春の風景を描いた小品だったが、私は大変気に入っており、購入以来ずっと自宅に飾っている。
この度、職場のアイコンになるような絵画が欲しくなり、友人を通じて同氏に制作を依頼したところ、快く引き受けてくださった。この風景は私が幼少のころから慣れ親しんだもので、所謂「心の風景」と呼ぶべきものである。発注してから1年6か月の時を経て実際に手にすることができたが、KANE氏のメモランダムによると、その制作過程は習作を重ねて同氏のイマジネーションを幾度も練り直し形にされたものである。そのアーティストの情熱・エネルギーを知ると、畏敬の念を抱かざるを得なかった。
当初私は、仕上がった絵に対して私自身の原風景に重ねる心象との違いを感じ、多少の違和感を覚えたが、私の眼で見た実際の「原風景」に対しても既に私自身の心象が投影されているのであり、当然別の人物がその風景に投影させる心象はその人固有のものであるはずである。そのことに気が付いて改めてこの絵をひとつの作品として見直すと、作者のこの絵に込めたイマジネーションや意図が見る側に静かに伝わって来るような気がした。
私は、この絵全体が持つ静寂さと明るさ・生命力に深い感動を覚えると同時に、この絵によって、私自身がこの原風景に投影している心象に新たな意味や価値を加えて貰ったような気がした。同氏がこの絵に添えてくださったメモランダムについては、ここでは触れないでおく。見る側のイマジネーションの広がりを削ぐことになるのからであるが、そのメモランダムはこの絵を手にした者の密やかな宝物でもあるからである。
これからずっと、私と私の同僚、そして来訪者がふとした時にこの絵を眺めながら僅かな時間であるにせよ、ある内的な時間を持つことになるだろうと想像すると、それもまた大変幸せなことだと思えるのである。

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