2026年10月20日火曜日

題:日本の片隅で起こる秋の攻防 

今年も10月に入った頃より、日本の各所から松茸の便りが届いて来た。各地とも今シーズンは、夏の高温と9月の豊富な降雨量により、豊作とのこと。テレビの向こう側で、まずは岩手、そして長野と、松茸を嬉しそうに買い求める老若男女の姿が映し出されていた。


10月中旬のある朝に「岩手、長野と来たから、そろそろこの辺りも収穫が始まっているかもしれないなあ〜。ああ、オレ、松茸の土瓶蒸し腹いっぱい食いて〜w でっかい鍋にさあ、鱧1匹分と大量の松茸が入ったヤツを食いてえ〜w」と笑っていたのは、イチロウ。


ボクが「そんな代物は最早土瓶蒸しとは言えないだろうよw。鱧の姿煮・松茸添えだわw」と応じると、彼はウフフと幸せそうな笑みを浮かべている。「イチロウは良いなあ。その気になれば、好きなだけ松茸買えるだろう?奥さんには理解があるだろう?その点、ウチなんかダメよ〜、小さい松茸を一本買うだけでも毎回嫁と一悶着あるんだからさ。結局スーパーの隅っこに寄せられたアメリカ産のものをやっと買って貰えるくらいなんだよねえ〜w」「鱧1匹と松茸どっさり買って帰りんさい…w」


イチロウとのおバカな話はその程度で終わったのであったが、やっぱりこの時期になると松茸(当然国産を指すw)が喰えるか否かが気にかかり始めるのは毎年のことであった。


ネット上で県内の松茸販売の状況を確認するのであるが、どうもリアルタイムでの情報ではないので、その販売量やいつまで店頭にあるのかが分かり辛い。市内のデパ地下にはジャジャーンと「県内産松茸❗️」と札が立てられたコーナーも設けられるが、高額の値が表示されたパックをレジに持っていくのも気恥ずかしいため、国産松茸をデパ地下で購入する選択肢はボクにはなかった。以前、買い物で寄ったデパ地下で、県内産松茸を発見しそのひとつを喜び勇んで同行していた嫁のところに持って行くと、彼女がさも嫌そうな顔をして小言を言ったことがあり、一度手に持った松茸のパックの購入を断念したことがあった。


彼女に言わせると、そんな高価なものを買うのも他の客の目もあり恥ずかしい、そんな想いをしながら買ったところで、少しも腹の足しにはなりはしないだろう。同じ金額を出すのであれば、高級な国産牛肉を買ったほうが良いではないかというのが彼女の意見であった。


まあ確かに彼女の意見には一理あるんだけどね。だけど、ボクの季節のものを味わいたいというのも日本人としての自然な感情なのではないかしら。


それ以来、毎年この時期になると、松茸を食いたし、だけれど、どうやって嫁を説得或いは監視の目を掻い潜り、嫁が容認する範囲の金額で松茸をゲットするか?が、ボクの悩みのひとつになり、シーズンが進むにつれて次第に懊悩状態に陥るのであった〜我ながらおバカだねえw。



今年も10月に入って以来、国産の松茸を購入するチャンスを窺っていた。ごく自然な形で、たまたま店を覗いたら、松茸があった。値段を見たら、「このぐらいだったらまあ良いかw」と妻も私も納得だと言える状況を作りたい。


食材一個を購入する為に夫婦喧嘩をするのもバカバカしい。たとえ、こちらが無理に押して大枚を叩いて購入してみたところで、妻の不機嫌に出会うのであれば、後味も実際に食べる松茸も不味くなるのがオチだと思っていた。


我が家では、松茸は食べない文化じゃあ〜と諦めたら良いのだけど、ボクは人生を達観できないのだよ。


さてと、どういう作戦を立てようか…。


今度の日曜日は10月4日に納車されたばかりのGolfの慣らし運転でドライブに出かけることになっていた。そうだ!県北の庄原までドライブすれば良いのではないか。


「秋が始まっているはずの県北をドライブしない?」などともっともらしく提案してみるか。そうやって無理なく県北へのドライブに妻を連れ出す。高速道路を繋いで走行し途中で通るはずの世羅町には、松茸販売所が何軒か点在しているみたいだし。でもその辺りのお店はあくまでも、妻をその気にさせる撒き餌みたいなもの、本命は庄原市内で、地元産のキノコ類を販売しているまつしまストアーさん。そこには、求め易い松茸が多分あるはず…。そして、妻を上手くそこまで誘い出すことが出来れば、あとは自然の成り行きで…、ムフ、ムフフフフ…


作戦は、ドライブ前夜から仕込みが始まった。夕食が終わってひと段落ついて落ち着いたところで、ボクから何食わぬ顔をして次の日のドライブについて切り出してみた。


ボク「明日のGolfの慣らし運転ね。どこに行きたい?やっぱり高速道路でエンジンを回したいよねえ。出来たら、尾道までか、庄原まで行ってきたいねえ。ママどっちに行きたい?」


妻「うーんとね、私はこの前行った府中焼き屋さんに行きたいねえ。だから、尾道はないなあ。庄原から近い?」


ボク「そっかw じゃあ庄原まで行って、そこから府中に降りて行くか…?」


妻「ああ、じゃあ途中で松茸買うか?」


ボク「えっ!?うん…まあw」


ボクは、呆気にとられて、しばらく溢れる笑みを妻に悟られないようにと押し黙ってしまったのだったw



10月18日日曜日、ボクは、朝6時に普段通り覚醒した。


慌ててはならぬw。ごく自然体に。ただし、午前10時過ぎには現地のまつしまストアーさんに到着していたい。松茸が売り切れる前に…。

でも今日はあくまでもGolfの慣らし運転が主目的。松茸のゲットは流れで。オトコの黙って勝負する〜今日ゲット出来なくても、泣くんじゃないぞ、マサキ…❗️



午前7時になり、ベッドから静かに階下の食堂に降りコーヒーを淹れて、妻が用意したパンを食べた。7時30分を回り、私から努めて穏やかに「8時には出たいね。」と伝えると、妻も大丈夫よと応じた。

午前8時少し前に、出かける時に、私が何気なく「まつしまストアーに立ち寄れたら良いなあ」と妻に言うと、妻は無碍もなく「そんなところ行かないわよ」と言った。


妻「だって、そこに寄ったら絶対買わないといけなくなるじゃん」「立ち寄ったところに有れば、買うで良いじゃない」


ボク「えっ? 行くだけ行ってみたら良いじゃないの…?」そのほうが、松茸は確実にゲット出来る可能性が高い......。またヒト波乱もふた波乱もありそうな展開になってきた......。


゛わかった、もう今日は作戦中止。純粋にGolfの慣らし運転を楽しむことに変更。松茸ゲット作戦は、次回の休みの日まで延期。今季もシーズン終盤にもつれ込むことになりそうだけど、毎度のこと。” そう割り切ることにした。ボクは気持ちを切り替え、Golfのステアリングを握り妻を乗せ自宅を出発したのであった。


山陽高速道路へ入り、新しいクルマのオートクルーズ操作や計器類表示の調整を確認。妻は助手席からオーディオパネルの操作をああでもないこうでもないと確認していた。外の景色は薄曇り、雲の合間から陽光が差し込み、まずまずのドライブ日和であった。


ボク達を乗せたGolfは、やがて山陽高速から松江尾道道に入る。両側に広がる山々の紅葉はまだ余り色づいていない。それでも空気は澄み、気持ちの良い初秋の景色が広がっていた。


世羅の道の駅で小休止をするよと妻に伝え、高速道路を降りる。世羅の道の駅は大変賑わっており、駐車場内は大変混雑していたが幸運にも難なくその一角にクルマを停めることが出来た。建物の外の一画に国産松茸販売の幟が立った売店を発見。引き寄せられるように、自然と足が向かう。どれどれ…。立派な大きさの既に傘の開いた松茸が売られていた。ひとパック15000〜20000円、長野県産か…、余り食指が動かず。出来たら県内産で、小ぶりなもので良いから、お手頃価格の物が良いな…。


世羅の道の駅で、地元産の野菜やその他のキノコ類を探したが、これといった品物は見つからず、再びGolfに乗り込み庄原市へ向かうことにした。


車内では、妻が問わず語りで、先日自宅に招いたご家族のその後の様子や息子どもの近況を話、ボクはフムフムと相槌を打ちながらも、一方で流す音楽をクラシックに変えてクルマメーカー自慢の音響をチェックしていた。Golfらしいエグゾーストノートが、車内の音響を邪魔していないことに満足しながらも、次に向かう庄原市内の朝市に想いを馳せていた。あそこに地元産の松茸を期待するのは無理があるな。例え販売をしているとしても、すでに午前11時を回っているから、すでに売り切れているかもしれないな.....。あまり期待せずに、寄ってみよう。


その朝市は、庄原インターから少し市街地に向けて走った道路わきの丘の中腹にあった。ここはいつ来ても人気がまばらで、落ち着いて商品を見て回ることが出来る。静かな建物の中に地元産の野菜、地元ブランド牛の販売コーナーや、お土産販売コーナーがあった。普段私は、地元が誇るブランド・庄原牛を求めてやってくるのであるが、大体は高額なため妻のチェックが入り、眺めて終わることが多かった。


庄原牛にも思い出があるのであるが、ここでは語るまいw


いつものごとく、朝市の地元野菜の販売所を見て回る。おお立派なナスが売っているねえ、おお、これは万願寺か煮びたしか天ぷらにして食べたいねえ、などとのんびりと店内を見て回っていると、他所を周っていた妻が近づき、「地元産の松茸、あそこに置いているよ」と小声で言った。


ええっ・・・・! 急いで妻が示すコーナーに行くと、小ぶりの松茸が入ったパックがふたつ置いてあるではないか。50gで5500円とな....。冷静に考えると先ほどの世羅の道の駅のものと価格設定は変わらないかもしれないけれど、それでも5500円というのが良い。これ買っちゃおうw!と決断し、ふたつあるうちの比較的大きな個体がふたつ入ったパックを籠に入れた。その隣に置いてあったムカゴ一袋550円もついでに買っちゃおうw。


ああ来てよかったw、神は我を忘れてくださっていなかった....。こちらの感激を知ってか知らずか、妻が横でちくりと「さっきの道の駅に寄らずにまっすぐここに来ていたら、まだ良い松茸があっただろうにね」という。こやつめ、松茸を買いたいのか、買いたくないのか....。それでも目的の物はちゃんとゲットしたのだから、まあ良いか.....。小ぶりなもので十分だよ、すき焼きに入れるほどではないけれど、ひとつは焼きマツタケにして、もうひとつは吸い物にして食べちゃおう。今晩の献立はこれで決まり........w。


そのあと、庄原牛が販売されている精肉コーナーとお土産コーナーを見て回る。ここでも妻がチクリ。「ああさっきの松茸を買わなかったら、庄原牛のおいしいお肉を買えるのにねえ....」だと。別に庄原牛は今日買わなくても、いつでもここに来れば確実に手に入る。だけれど、ボクにとって県内産の松茸は一年に一度の出会いなんだよ。イ・チ・ゴ・ウ・イ・チ・エ.......w

ああ、これで男子の本懐は無事に遂げたり。もうまつしまストアーに寄る必要はなくなった。あとは妻の「府中焼き」を食べさせたら、本日の外出任務は無事終了となる。ふたたびGolfに乗り込み、府中市に向かって南下し、「平の家」さんを訪問。妻の希望する府中焼きを腹に納めて妻も満足し家路についたのであった。


帰りの道すがら、妻が晩飯の献立はどうすると聞いてきた。ボク「焼き松茸と吸い物。あとは何でもよい、あるいはそれとご飯だけで良いよ」と返すと、妻「それだけじゃたりないでしょ。冷凍庫にある牛肉を降ろし、今日買った野菜といっしょに鉄板焼きしようか?」と言ってきた。


むむ、献立立案で大きな難所がやってくるとは。トホホ。

松茸を鉄板の上で一緒に焼いてしまおうという魂胆か......。それをどうせ焼き肉のたれで食べるんだろう?もう風味も情緒もないのではないか....。オレの秋は、そして松茸の風味はどうなるのよ.....。


ここから晩御飯に向けての夫婦間のちょっとした攻防が再開されるのであったが、あまりにもしょうもなさ過ぎて、ここにその顛末を詳細に記すことは控えておこう。


で、結局松茸をどうして食べたかという結末だが、結局のところ、夕食時間になっても昼に食べた府中焼きが妻もボクも腹の中にしっかりと居座り続け、妻が提案した鉄板焼きは成り行きで没となった。夕食時になると、妻が段取り良く、帰りの途中で買ったお刺身と朝市で購入した野菜の煮びたし、そして松茸入りの茶碗蒸し、焼き松茸を拵えてくれて、大変美味しい晩御飯となった。


日本の片隅で生じたこのちょっとした攻防戦は、ここ数年我が家での秋の恒例行事となったが、この度は妻のおかげもあり、私の願望はめでたく成就したのであった。ご馳走様w


エピローグ



私が、まだ幼少の頃、実家がある町の山では松茸がよく採れていた。両親の知人が親切にも季節が訪れると毎年のように沢山の松茸を差し入れてくれたものだった。


松茸が我が家にもたらされると、松茸入りのすき焼き、茶碗蒸し、吸い物、炊き込みご飯が食卓を賑わせてくれた。特に私の好物は、松茸入りの茶碗蒸しであった。松茸の風味が湯気と一緒に立ちのぼり、口に入れた時のシコシコとした食感がなんとも言えなかった。その後、いつの間にか松茸は縁遠い食材となり、松茸は幼き記憶と共に私の意識からは遠ざかってしまっていた。


もう10年以上前のことだったか、イチロウが、この時期になると県外に住む父君に誕生日プレゼントとして、県内産の松茸を送ることにしていることを知った。とても良い話だと思った。


「で、オヤジさんは、どうやってその松茸を召し上がったの?」と彼に聞くと、彼曰く「焼き松茸、土瓶蒸し、炊き込みご飯…」「物凄く満足したみたいだよ」と返事をした。


私「あ!そこに是非すき焼きを加えてください。と伝えてね。無茶美味いんだよ」。


彼は笑いながら、「ああそうするよ」と返事をしてくれたのだった。なんだかその時に彼の笑顔の向こうに、父親が息子から送られた松茸を食べて幸せそうな笑顔を浮かべている様子が目に浮かんだ。


松茸を巡る幸せな光景が、ここにもしっかりとあるのだと思った。


おわり


0 件のコメント:

コメントを投稿