2022年5月3日火曜日

アメリカ音楽界隈を徘徊するのこと~その2~

4月に入り、私が住む地方では気温が急激に上がったかと思えば、気圧の谷続いて台風1号の影響により雨が降り、急激に気温が下がり肌寒く、何とも忙しい天候となっている。例年、春の訪れの兆しを探し求めながら過ごし、野鳥のさえずりや草花の賑わいを見つけては楽しんでいるのであるが、この度は例年に比べて私の現実生活も忙しいようで、ふと職場の周りを歩いていると、うぐいすやセキレイのさえずりや花壇の花々の開花にはっとさせられることがある。

2月からあれこれとアメリカ・ルーツミュージックを聴き漁ってきたが、アフリカ系アメリカ人が遺した音楽についてはひと段落をつけて、3月中旬よりヨーロッパ系アメリカ人が遺した音楽を聴き始めた。これまでカントリー、ブルーグラス、フォークなどは、私にとってあまり興味が持てるジャンルではなかった。

 これらの音楽ジャンルに興味が持てなかった理由として、音楽的物心がついた中学生当時1981年頃に見たアメリカ映画「Blues Brothers」、1980年代に流行したブリティッシュロックやテクノポップ、それから当時の日米の貿易摩擦などの世相などの影響もあったのかもしれない。

 Blues Brothers」は、ダン・エイクロイドとジョン・ベルーシが主演で、二人組の主人公が経営の行き詰まった孤児院を救うためにリズム&ブルース・バンドを結成しハチャメチャな珍道中を繰り広げる、ミュージカルそしてロードムービー仕立てのストーリーだった。その中では、二人の主人公にとって、ブルーズなどのアフリカ系アメリカ人音楽がとてもクールで最高なものとして、一方でカントリーミュージックはどこか田舎臭く粗野なものとして描かれていた。それ以来私も、最近に至るまでそのような感覚を持つようになってしまった。

 ずっと後年になり30代半ばに仕事の出張と休養を兼ねてカナダ旅行をしたことがあった。カルガリーからバンフへ同僚とレンタカーで移動している際に、カーラジオから流れてくるカントリーミュージックを聴きながら、車窓に広がるなだらかな起伏のある牧草地帯と眺めていたのであるが、その長閑な景色とカントリーミュージックがとてもマッチしており、その風土に育まれた音楽は、その土地で聴いてみると良いものだ、もし私がアメリカの中西部で生まれ育っていたならば、カントリーミュージックを好んで聞いていたのかもしれないと思ったものだった。

 それ以来、私の中にある様々な偏見はひとつ払拭されていたのであったが、これまでの生活リズムや環境などから、進んでカントリーやフォークを聴く機会がなかった。この度アメリカのルーツミュージック音楽を徘徊してみようと思い立たなければ、これらの音楽をこの先も聴かずに人生を終えたと思える。この度色々と探していると新たな発見もあり大変楽しく、それらの音楽に対して愛おしささえ感じることとなった。

 カントリーミュージックのルーツは、イングランド、ウェールズ、スコットランドやアイルランドからの移民が本国から持ってきた民族音楽から発展したものらしい。彼らの多くは、アメリカ東部のアパラチア山脈周辺に入植した者が多く、彼らが祖国の民謡を歌い継いで、それがカントリーに発展したという。歌い手の出身は米国南部諸州が多く、ブルーズなどの影響も受けおり、1940年代よりヒルビリーとかマウンテンミュージックと呼称され、これらの音楽からブルーグラスが派生したという。

 この度は、これらの音楽の源流も確認してみたいと思ったところから、以下のような音源を購入し聴いてみた。以下の説明の多くは前回と同様に「はじめてのアメリカ音楽史/ ジェームス・M・バーダマン、田中哲彦 著 ちくま新書」、Wikipediaからの引用です

 1. Classic English and Scottish Ballads from Smithsonian Folkways/ from The Francis James Child Collection

Francis James Child(18251895)は、文献学者でハバード大学の教授だったヒト。19世紀後半(18571858)にイングランド・スコットランドに古くから伝わる(大体16世紀から18世紀にかけて生まれたものが多いという)バラッド(民話・叙事詩)、伝承歌を収集・整理し305編にまとめた。その後、時代は下って1940年代以降、様々なフォーク系アーチストがチャイルド・コレクションを取り上げて演奏録音しているようである。19世紀より、民俗学が隆盛したのだろうと思うが、チャイルドは、日本でいうところの柳田國男みたいなヒトだったのだろうと勝手思っている。このアルバムに収められている演奏は195060年代を主に、2000年代まで様々な年代にレコーディングされたものであるが、哀調を帯びた旋律が繰り返されるなどどこか郷愁を誘うメロディが多い。主にブリテン諸島からの移住者がアパラチア山系の入植地で、こんな音楽を奏で苦労の多い日々を過ごしながらも自らを癒していたのだろうかと想像すると何だか愛おしくなってしまう。

 

2. Classic Celtic Music from Smithsonian Folkways

私は、ケルトという言葉に弱い。それには理由があるのだけれど、それを述べるのと長くなってしまいそうなので、この度は割愛する。ケルトとは、古代ローマ帝国時代の文献にも登場する西ヨーロッパ全域に活動していた古い民族ならびにその土地の呼称で、時代は下って現在ではブリテン諸島のスコットランド、アイルランドに残された文化を呼ぶときにそう呼ばれている。現在では、主にアイルランドの伝統文化を指すことが多い。物の本によると、現在のアイルランドの人口が約400万人に対して、アイルランド系米国人の人口は約2000万人と云われ、如何に本国から米国に渡った移民者が多いことが窺える。そのきっかけは19世紀にアイルランドで起こった大飢饉によるもので、アイルランドの農村の崩壊と共に生活の糧を求めて米国への移民する者が急増したらしい。その後に、アイルランド本国で起こった艱難辛苦、苦難を乗り越えて20世紀初頭に果たした独立の過程とアイデンティティーを求めての文化運動についても興味深いのだが、それについても割愛。アイルランド移民の多くは、米国東海岸諸州に定住したらしいのだが、彼のコミュニティーの中で故郷の音楽が演奏され・歌い継がれてきたのであろうことは、想像に難くない。一般的に彼らの音楽が、現代のアメリカのフォークやロックに影響を与えたとされるが、現時点では私には具体的に分からない。今後良い文献を探して深堀出来ればと思う。

このアルバムでは、繰り返される旋律で構成されたメロディ、哀調を帯びたスローテンポな曲がフィドル、バグパイプなどの演奏や独唱で聴かれる。1970年代後半からワールドミュージックとしてのケルト音楽が世界的に脚光を浴びることになるのだが、それらのムーブメントの中心的役割を果たしたグループのひとつであるBothy Bandの都会的に洗練された演奏と比べると、このアルバムに収録された多くの演奏は、より素朴さと哀愁を帯びたものが多く、19世紀半ばにアイリッシュ米国人が持ち込んだ本来のアイルランド農村地域に残っていた音楽により近いものなのではないかと思えた。

 

3. Classic Bluegrass from Smithsonian Folkways Vol 1, Vo2

カントリーミュージックは、イギリス諸地方からアパラチア山系に入植してきたヒト達が、彼らの故郷から持ち込んだバラッド、民謡などを歌い継ぎ、それらの音楽から発展してきた。ブルーズなどの影響も認められるが、基本的には南部白人文化が素地になっている。彼らの農業中心の生活で保守的な傾向から、イギリスのバラッドのテーマが良く残されているのだという。

カントリーミュージックは、当初ヒルビリー(1920年代)、その後マウンテンミュージック、カントリー&ウエスタン(1940年~1950年代)と呼称が変遷、40年代からブルーグラスというサブジャンルが派生したという。

この度は、ブルーグラスに興味を持ち、Smithsonian folkways collectionを購入し聴いてみた。馴染みやすいメロディに男性ボーカルの高くも優し気なハーモニー、フィドル、バンジョー、マンドリンなどのテクニックを競うかのような速弾き、総じて明るくて長閑な曲調が多いような印象。明るい陽射しの春の午後に聴いていると穏やかな気分に浸ることが出来る。60年代以降の都会の若い人たちには、カントリーミュージックがどこか保守的で田舎臭く映り、あまり受けなかったらしい。

 そうなのかもしれない、これらの演奏をクルマに同乗していたうちの愚息に聴かせたら、「もう無理」と途中で変えられてしまったw。でも、私としては聴いていて悪くないと思うのだが、ああ、そうか! 私自身が、いつの間にか田舎暮らしの初老オトコになってしまってい、その曲調が私の精神状態に丁度合っているのかもしれない

否!その音楽性が素晴らしいから、現在まで米国人の多くを魅了し続けているのであったw

 

4. Classic Railroad Songs form Smithsonian Folkways

米国における鉄道の始まりは1830年であり、それまでは、水路を主体とした貧弱な交通しかなく、以後蒸気機関車による鉄道網が全米に急速に広がった。鉄道の発展によって、ヒトの移動だけではなく、物や情報の伝達速度も飛躍的に速くなったのだろう。20世紀半ばに旅客機やクルマにその主役を取って代わられるまで、人々の鉄道に対する憧憬は強かったに違いない。旅情、人生の出会いや別れ、ニュースや知人・家族からの知らせなど、人々の様々な思考や心情を鉄道に投影されていたに違いなく、歌に表す大きな表象となったのだろう。この音源では、労働歌、バラッド、ブルーズ、カントリーなど、様々な音楽形態の曲が聴かれるが、そのどれもが素朴なれど、逆に曲に込めた人々の心情がストレートに表れているようで好ましく、聴き終わった後に優しい気分になる。また、Pete Seegar,Lead Belly,Woody Guthrieなど現代フォークのレジェンドたちの演奏をこのアルバムで知ることが出来たのは良かった。


5. This Land Is Your Land: The Asch Recordings, Vol.1/ Woody Guthrie

Woody Guthrie(19121967)は、「現代フォークの祖」と評されたフォーク歌手で、1930年代から活動。30年代の不況下で放浪するHoboと呼ばれる人たちと共に米国内をギターを持って放浪し、土着のメロディーに新しい歌詞をつけて貧困や政治、旅情や自然を歌ったのだという。このHoboという言葉、この度初めて知った。不況下において、無賃で列車に乗り込み、季節労働や日雇いで糧を得る貧しいヒト達がいたんだね。フォークソングは、メッセージ性が強く往々にして反体制的な行動と共にあったみたいなのだけれど、ウディ・ガスリーも時に労働運動に関わった。下層労働者に対する仲間意識が強く、そういった人々がいることを繰り返し発信したのだという。音楽的に成功を収めるが、生涯大都市に近づかず放浪を続けたらしい。若き日のBob Dylanが彼を敬愛し、晩年病床に伏せていたガスリーを幾度となく尋ねたのだという。実際にこの音源を聴いていると、曲調は全体的に明るく穏やかな曲調が多く激しくプロテストした内容になっていないので聴きやすい。無名の民の中にあるメロディーや心情に沿った歌のようであり、その点が普遍性を持った音楽となっているような気がした。


こうやって、ルーツミュージックを色々つまみ食いのように聴き漁ってきて思う事は、一人の天才が築き上げた音楽も確かに凄いのだけれど、なんだか無名の一般庶民によって長年歌い継がれてきた音楽っていうのもなかなか素晴らしいなということである。そこには時代や状況に翻弄された苦労の多い人生から生まれてきた人々の喜びや悲しみなどの心情が直に込められている。聴き手としては、何世代にも亘って音楽として受け継がれてきた無名の人々を「心」を受け取っているようであり、その事を想うと何とも言えず深い感銘を受けてしまうのである。

ボクの「アメリカ音楽界隈の徘徊」はもうしばらく続く。

 

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