2月のある休日に家内と鞆の浦~笠岡~浅口市沙美海岸まで海沿いの道をドライブした。当日の天候は、最高気温15度最低気温4℃、晴天で早春らしい穏やかな日和だった。鞆の浦までドライブするなら、沼隈町の道の駅「アリスト沼隈」に寄ると良いよとイチロウ氏。同所では、地元の漁師が直接新鮮な魚を卸していて、朝早くからお客さんが店頭に並ぶくらいに地元のヒトには大変人気なのだとか。
“そういうことであれば、早起きしていかねば”と心に決め、当日家を出たのはam 07;10頃、山陽高速を東上し、福山西インターで高速道路を下り、沼隈町に向かう県道を走った。午前8時前の高速道路は交通量が心なしか多いようで、春日和を期待して皆それぞれの目的地に向かってドライブを楽しんでいるのだろうと思われた。
Am08:45に第一の目的地、道の駅アリスト沼隈に到着。同所は午前8:00の開店であったが駐車場は既にいっぱいで、イチロウ氏から聴いていたように人気店であることが分る。店内に入ると、出入り口の右横に鮮魚コーナーが設けられていて、逸る気持ちを抑えつつコの字に設えられた冷蔵棚を見て回った。
残念ながら第一目標のシャコは見当たらなかったものの、タチウオ、ゲタ、デベラ、カレイ、コノシロ、ハゼ、小エビ、エイ、チヌ、イイダコ、ミミイカ、などの新鮮な魚がずらりと陳列されてある。“あれもこれも欲しい”状態であったのだが、散々悩んだ挙句、とは言っても最終的な決定権は家内にあるのだが、ハゼ、小エビ、タチウオの三枚おろし、刺身用のチヌの半身、ミミイカを購入した。
収穫内容に大満足であったが、この後笠岡や寄島町の道の駅、魚の直売所に立ち寄る道程であったので、次の目的地・獲物に向けて心が逸った。良いものは得るためには午前中が勝負だろう、他の客に良いものを取られる前に着かねば。アリスト沼隈を出る前に、朝飯替わりに缶コーヒーと「芋饅頭」なるものを買って車内で腹に収めて、出発。次の目的地は鞆の浦。
鞆の浦に向かう県道を更に進んで行くと、程なくして海岸縁に出た。朝日に照らされた水面は波が立たずべったりと穏やかで、遠望するとキラキラと輝いていた。午前9時45分頃に、鞆の浦港に到着。街中を抜ける県道は聞きしに勝る隘路で、クルマの離合に大変気を使う通りであった。幸いにして休日朝であったせいか、隘路の対向車は少なく2-3台程度をやり過ごすだけで済んだが、生活道として使う住民の方々が、港の上に橋をかけたくなるのがよく分かった。休日朝の鞆の浦港は、誠に静かな佇まいで、しばらくのんびりと港界隈を散策したかったが、生憎付近の駐車場を見つけることが出来ず、路肩にクルマを停めて港の景色を数枚写メした。古き趣を残した瀬戸内の情緒が偲ばれて、私としては大変良かったと思えたのであるが、その事を家内に漏らすと「海辺で生まれ育ったくせに。実家の周りの風景と対して変わらないじゃんw」と笑っている。私も苦笑いするしかなかったのであるが、この瀬戸内の情景が好きなのだから仕方がない。自然とヒトの営みが織りなす風景が堪らなく好きで、その傾向は齢を取るにつれて益々強くなっている。今度は嫁など連れずに一人で来訪しようと思う。
このお店は、所謂雑魚と呼ばれる鮮魚はなく、やや高級路線の鮮魚店だった。これはこれで良いし、「レンコ鯛の半身を酢ジメにしたらどう?」との店側の提案には心が随分動いたが、当日のこちら側の気分としては「小魚が喰いたし」であり、こちらの欲望とは微妙にずれていて、結局既に調理済みのワタリガニを一杯だけ買って終わりとした。その他、店内を一通り見て、次の目的地浅口市寄島に向かう。
笠岡カブトガニ博物館を右手に見た後、右折して県道47号線の海沿いの道に入る。右手の入江内の干潟はカブトガニの生息地として保護活動がなされているらしい。30数年前もイチロウ氏と逆方向に走ったのだけれど、道幅が広くなり時の流れを感じた。確か独身時代に家内も連れて来た記憶があったが、当人は全く記憶にないとのこと。「別のヒトと来たのではないの?」と疑義が呈されたが、それは当時の状況として全くなしと答えると「随分つまらない青春時代を送ったね」と憎まれ口をたたかれた。私は、無言で苦笑いしたが、海沿いの田舎道をデート目的にドライブするなんてことは、当時の若い女の子にとっても今の娘にとっても確かに面白いものではないかもしれない。あの頃も、私はこのあたりをドライブしながら、この道端に真っ黒に日焼けした小学生が水着姿で浮き輪を持って歩いているのを見かけ、自分自身の幼少期を思い浮かべて懐かしがっていたのだから、瀬戸内情緒に愛着を持っている者にしかこの道の楽しさは分からないのだろう。
一息入れた後、道沿いの大島美浜漁協の鮮魚直売所に立ち寄ったが、時刻は11時30分を過ぎた辺りで、時間的な問題もあったのか、私が欲するような鮮魚はなかった。続いて、寄島町の鮮魚直売所に立ち寄ったが、2-3品を残し大半の品は既に売り切ったようで開店休業状態だった。道向かいの寄島漁港には、牡蠣の直売所が軒を連ねていて直接買うことも出来るし、地方発送もして貰えそうだったが、この冬牡蠣は数回我が家の食卓に上がっていたため食指は伸びず、次回の楽しみとした。
寄島町の道沿いに、鮨屋とさかな料理の食堂を発見し、それも次回の楽しみとしつつ、この度の最終目的地の沙美海岸に向かう。
同地に着いたのは、午後12時40分頃。いくつかの家族連れ、若いデート中の男女などが思い思いに海水浴場の浜を散策していた。気温もクルマの車外温度計を見ると17度まであがりぽかぽか陽気となっていた。先ほどのアリスト沼隈で購入したおにぎり弁当で昼食とした。この海岸にも学生時代の楽しい想い出があった。初夏と初秋に訪れて静かな白浜をぶらぶらと散策するのが好きだった。駐車場も広く海水浴シーズンを外して来るには良いビーチだと思う。お弁当を食べると少し眠気が差して、車内でぼんやりと過ごし眠気をやり過ごした。ぼんやりとしながら、この度のドライブを振り返った。この度のドライブルートは大変素晴らしかった。天候も良し、風景も良し、ゲットした収穫物も大満足。これからも、春・夏・秋の夫々の季節に来ようと思う。まずは春になれば店頭に並ぶ瀬戸内の魚も随分賑やかなになるだろうし、その季節折々の瀬戸内の情景も楽しめる。幸いにして、家の家内も道の駅めぐりドライブを好むようになった。道の駅めぐりを愉しむなんて、我々もそれなりの中高年夫婦になってしまったのだろうけれど、それはそれで良し。
ただ、今回の反省点は、瀬戸内情緒を愉しむことと鮮魚をハントすることは必ずしも両立しないことだった。良い獲物を得るには朝早くその鮮魚店に出向くしかなく、悠長に風景を楽しむゆとりがない。アリスト沼隈の鮮魚コーナーに来た他の客は、一通り陳列棚を見て得たいものがないようだとさっと出ていくヒトが多かったことに気が付いた。恐らく次の店に向かったのではないかと思われる。鮮魚ゲット目的のドライブと瀬戸の海辺散策のドライブは心構えから違うのだ。だから、次回は春から初夏の間のシャコを始め色々な小魚が美味しいシーズンにやって来て、道草せず鮮魚ハントに勤しもう。
あ、言い忘れた。私は魚をさばくことが出来ないので、調理は全て家内にお願いした。生魚のさばくことを厭わない嫁を貰って良かった。ありがとう。
(おしまい)