前回のブログでハンバーガーについて触れたが、それを読んだイチロウ氏が「オレも米軍弾薬庫のPXで売られたハンバーガー喰いてえ」と感想を漏らした。
妙なところに喰いついて来たなと不思議に思っていたところ、彼には彼なりのハンバーガー原初体験なるものがあるらしかった。彼が私に語ってくれたところによると、彼がまだ中学の思春期真っ只中の折、ひと夏米国アリゾナ州にホームステイしたのだが、有る休日にホストファミリーが、彼を砂漠へドライブに連れ出してくれて、そこでバーベキューを催してくれたのだという。
バーベキューで振る舞われたのが、分厚いハンバーガーとポークビーンズだったとのこと。いずれの品も大味だったのではないかと推測されるのだが、これはあくまでも日本における通説;アメリカの料理は大味であるという噂を述べたまでのこと、むしろ強調しておきたいのは多感な少年が異国の広大な大地の上で、その空気や日光と共に五感を全開にして味わったハンバーガーもポークビーンズも最高に旨かったに違いない。どんな料理にしても、その土地で味わうのが一番であることは、実体験として私もなんども認識を新たにしてきたものだ。
彼には彼なりのハンバーガー体験があったものだから、私が触れた米軍基地のハンバーガーの件は彼の心の琴線に触れたらしい。その後、彼は「オレも米軍弾薬庫のハンバーガー喰いてえ。絶対美味かったんだぜ、それ。」「今でも、そのPXにハンバーガー売ってるのかなあ。そこにどうにかしては入れないものかな」などと折に触れて私に言うのだった。
私なりに振り返ってみても、あれは私が小学校低学年の頃なので70年代半ば。という事は、まだベトナム戦争の雰囲気が多分に残っていた頃で、弾薬庫にもアメリカ軍属の関係者らしきヒトたちが出入りしており、関係車両をわが田舎町でも時折見かけたものだった。あれからもう45年くらい経って、そういえばこの田舎町で米軍の車両も関係者らしきヒトを全く見かけなくなった。弾薬庫そのものはまだあるけれど、PXを必要とするくらいの人員規模はないのではないか。
そんなことをイチロウ氏に話すと、イチロウ氏も「むむむ。」と黙り込むのであった。米軍弾薬庫PXのハンバーガーをもう一度喰いたくなっていたのはイチロウ氏だけでなく私も同様で、それならば記憶を頼りにあの「ザ・アメリカンハンバーガー」を作ってみてやろうと思い定めた。
イメージは、ダブルチーズバーガーで、パテにはアメリカンビーフを使う事、味はシンプルにケチャップとマスタード、肉汁ジュワーで夫々の素材がしっかりと味わえるものにしよう。そんなアイデアをイチロウ氏に伝えると、彼は「そうしたら、ケチャップとマスタードはHeinzのケチャップとマスタードじゃないとダメだからな」と拘られる。ああ、そうかバーベキューコンロの脇のテーブルの上に置いてあったのは、このブランドのケチャップとマスタードだったのだろうな、そう推察申し上げて、彼の示唆に準じることにした。
材料はコロナ禍であるのが理由ではないのだが、なるべく確実に手に入れたいと思い、ネット通販を検索し、以下のものを年末年始にかけて手に入れた。
・バンズ冷凍もの6個入り一袋
・胡瓜のピクルス1瓶、チェダーチーズ一袋、Heinzのケチャップとマスタード1ボトルずつ
・パテ成形器1セット
生鮮食料は、近くの大型スーパーでの買い出し
・アメリカンビーフ肩ロース270g、国産牛ミンチ130g
・サニーレタス、タマネギ、ベーコンスライス1パック、トマト
そしてこれらの材料が揃った1月上旬のある夜に試作してみた。
1) パテ作り
アメリカンビーフ肩ロースを一口サイズに切った後、フードプロセッサーでミンチ状にした。(フードプロセッサーが、自宅に在ったのは誠にラッキーだった。)アメリカンビーフのミンチをボールに移し、国産牛ミンチと合わせて氷冷水の上でしばらく粘りが出るまでひたすら捏ねる。味付けは、塩と黒コショウのみ、風味づけにローズマリーパウダーとナツメグパウダーを加える。きちんと塩量を図っておけば良かった。塩加減は適当だったのだが、やや多めに加えた。
ある程度ミンチ肉に粘りが出てきたところで、パテ成型器に擦切りいっぱい入れて、蓋状のものをプッシュして形を整える。400gのミンチ肉では、私が購入した成型器から3枚のパテが作れたので、パテ1枚130g強となった。
2) 各材料の準備
その他、玉ねぎは厚さ
5㎜程度の輪切りに。ピクルスは小型の胡瓜のものを1つ分薄くスライス。ベーコンスライスは2枚用意した。トマトは1㎝程度に輪切りしたもの1枚、サニーレタスは3枚程度。
3) それぞれの食材を調理
・ベーコンスライスとタマネギの輪切りを中火にかけたフライパンでソテー。玉葱は焼き目がつき、すこし透き通り始めたくらいでフライパンから外し、アルミホイルに移しておく。ベーコンも焦げ目がついたら同じくアルミホイルに入れておく。仕上げ前にオーブントースターで温め直したいから。
・パテは、イチロウ氏の体験によるとミディアム状態で焼き上がるのが理想らしいが、この度の肉は解凍ものであり、衛生面も考慮して肉汁が失われない程度で十分な火を入れておくことにした。片面は中火で裏返してからは弱火とし、合計10分弱ソテーした。
・バンズは冷凍庫から出した後、常温に戻した後に少しバターを塗ってオーブントースターで2分ほどトーストした。/前後するが、先ほどのタマネギ・ベーコンはその前にホイルごとオーブントースターにて温め直した。
・パテのソテーが仕上がるのを見計らって、バンズをオーブントースターから取り出し、各食材の盛り付けを開始。 バンズ下半分のうえに、ベーコン、サニーレタス、タマネギソテー、チェダーチーズスライス、(マスタード)、焼き上がった直後のパテ、生トマトスライス、(ケチャップとマスタード)、チェダースライスチーズ、胡瓜ピクルス、そしてバンズ上半分。
4)試食してみる。
実際に出来上がったダブルチーズバーガーは、誠に分厚くてボリューミー。とてもこのハンバーガーを口を開けてそのまま食べられる状態になかった。そうだ、以前テレビかなにかで観た時に、アメリカのオニイサンたちが、思い切りこのハンバーガーを押しつぶすようにぺちゃんこにして、嬉しそうに口を開けて食べていたっけ。それを想い出し、バンズを軽く叩いて押しつぶそうとしたら、中の具材がはみ出して収拾付かなくなりそうになったので、もうとにかく何も考えずに取り掛かる事(食べ始めることにした)
うーむ、誠に美味し!!。パテからは、肉汁がこぼれて、牛肉の味がしっかりしていた。塩加減も良かったみたい。フレッシュなトマトとレタス、半ナマ状態のタマネギ、これらをカリカリベーコンと深みのある味わいのチェダーチーズが下支え。バンズも程よくパサパサで、パテのずっしりとした食感に上手く受け止めている。柔らかいだけのバンズでは、このパテを上手く受け止めることは出来なかったであろう。そうなんだよな、バンズの良し悪しもバーガーの出来を左右するんだものな。
期待以上のダブルチーズバーガ-だった。ソースなどで誤魔化されない、素材が主張し合った上でのハーモニーが絶妙なバーガーに仕上がり、一人大満足の結果だった。
早速、翌日仕事が終わった後で、イチロウ氏に試食願う。
イチロウ氏:「おお、これは食べるのに一苦労だね。どれどれ……。うむ、これウメエ!これは何個も行けるぞ。このパテよく出来てるぞ……」「おお、腹いっぱいなった。でも、まだ喰いてえ…..。」
以上、イチロウ氏は大満足してくれた様子だったのだが、その感想を聴いて、作り手としては「してやったりw」と、彼以上の更なる満足を得られたのであった。
うーむ、幼き頃に食べさせて貰った米軍PXのハンバーガーも、イチロウ氏が多感な頃にかの地で食べたハンバーガーもこんな味がしたのだろうか?少なくとも私の淡い記憶を頼りに比べてみたけれど、この度のバーガーと比べてみて多分当時食べたハンバーガーの方がやはり旨かったのではないかと思えて仕方がない。どんなに工夫を凝らしたところで、あくまでも「〇〇風」であり、現地のヒトが(この場合牛肉の味を良く知っている米国人)が現地の工夫の中で作ったものに叶う筈もなく、また食べる者もその土地の風土を味わいながら(イチロウ氏の場合であればアリゾナ州の空気、私であれば我が田舎町にある米軍基地という異国の雰囲気)いただく方が旨いに決まっているもの。あのハンバーガーの味は、心の奥底に仕舞われた永遠の味なんだと思う。それはそれで良しとするべきだろう。
そう思うと、ある別の感慨が湧いて来るのではあるが、この度のバーガーは、あくまでも「マサキのチーズバーガー」として更に精進を重ねて味を極め、それを欲する者どもに食わせてやり、後世にマサキの笑顔と共にこのチーズバーガーの味を各々の脳裏に刷り込んでやろうかしら?とふとおバカなことを思うのであった。
終わり