本浦地区・桂浜を通り過ごし、更に二人で鹿島を目指す。
桂浜を過ぎてすぐに短い上り坂のトンネルがあり、右にカーブして入江に入り、入江を過ぎると再び岬というほどではないが山の斜面を削った坂道を上りピークを過ぎると次の入江に入るということを繰り返した。鹿島に辿り着くまでおよそ5-6か所そのような運動を繰り返しただろうか。 小さい入江の外れの浜辺では、家族連れが海水浴とバーべキューを楽しんでいる光景が認められた。イチロウが、「もう家族でバーベキューなんてしなくなったよなあ」と言っている。そうだよな、お互いに子どもが大きくなって野外でキャンプやバーべキューをするというイベントもしなくなった。過ぎ去りし日の事を思えば少々さびしいが、だからこうして休みの日にオッサン二人でチャリを転がすことも、赦されるようになったw。
大きな入江では、大きな集落に小規模な造船所や漁港があった。こんなところにもと云えば大変失礼なのだけれど、恐らく遣唐使船が瀬戸内海を行き交っていた昔から脈々と人々の暮らしが続いていて改めて凄いことだと思う。
そんなことを思いながらひたすらにペダルを漕いだ。
いよいよ鹿島が目の前に見えて来た。倉橋島から鹿島に渡る前に鹿老渡という地区があって、小さな独立した島になっているのだけれど、この島の正式な名前をボクは知らない。県道は東側の弧を描くような浜に沿って走っているのだが、この浜辺が入江の白浜になっていてたいへん美しいのだが、一家族が海水浴をしているほかは静かな佇まいであった。鹿老渡地区の集落に入り左手に曲がるとちょっとした登り坂で、この登り坂をゆるゆると登ると、鹿島大橋に辿り着いた。
この橋、クルマがやっと離合できる道路幅なのだけれど、橋脚がやけに高い。先についたイチロウは自転車を停めて、橋の下の海を覗き込んで笑っているが、高所恐怖症のボクにはそんな芸当が出来ない。一息入れて橋の入り口からイチロウを写し、さっさと橋の真ん中を通って鹿島入りしてしまったw。
橋を渡ると、少し走って鹿島西端の小さな漁港がある集落をゴールとした。
到着時刻;午前11時10分頃、runtasticによれば、走行距離;40.6km、走行時間1時間58分、平均時速20.5㎞/hrとなっていた。
当初予定していたよりも早いペースでやって来れた。
陽は随分高くなり、辺りは非常に眩しかった。小さな島の漁港は人影もなくひっそりと静まり返っていた。岸壁から海を見ると大きなボラや小さなフグがゆったりと泳いでいた。海水は透明で大変美しかった。そうか!自転車で来ずにクルマでやって来て、潜って遊んでも良かったのか……。奴は、「子どもの頃、磯遊びが好きで大学は水産学部に入りたかったのだよ」と何時か語っていた……。
暫く、雑貨屋さんと思しき建物の軒下に出来た日陰で休息を取ることにした。軒先には、自動販売機があり、冷えたスポーツドリンク500mlを途中の補給用に、そして疲労回復にと、糖分とビタミンCとアスパラギン酸入り栄養炭酸ドリンク500mlを購入する。イチロウは、奴には珍しくコカ・コーラの100円缶を買って飲んでいる。不思議に思って質すと、「ツール・ド・フランスで、選手がサポートカーから手渡しでコカ・コーラを貰って飲んでいたのよ」と笑っている。この辺りの彼の行動が無邪気と云えば無邪気で、面白い奴だと毎回のように思う。
30分程度休んだところで腰を上げて復路に向けて出発する。イチロウが「桂浜に気に入っている食堂があるんだよ、そこで昼飯を喰おうぜ」という。「それ良いな」と後に続く。
再び走りはじめ、ペダルを回す両脚は軽く十分に疲労は回復したように思えていた。「さっき飲んだアスパラギン酸入り炭酸のおかげよ」なんてイチロウに軽口を叩いたまでは良かったのであったが、鹿島大橋を渡るために登り坂を上がり始め、両大腿に力を入れた途端に両大腿部の膝関節部分の筋肉が攣り始めた。
これまでの経験で慌てて自転車を降りるよりは、そのまま力を入れない程度でペダルを回し続けて攣縮が治まるのを待った方が良いので、痙攣が悪化しないように踏み込まず軽くペダルを廻し続けることにした。この作戦で痙攣は悪化せずに済んたのであるが、推進力は得られずヨタヨタと漕ぎ続けることになった。イチロウ、「大丈夫か?」と前後しながら付き合ってくれる。
この辺り、普段鍛えているイチロウと不摂生なボクとの間の脚力の差が出てしまい、全くもって恥ずかしいやら情けないやらなのだが、取りあえず大きなトラブル・リタイヤにならないように適度に力をセーブしながら進むしかなかった。往路はそれなりにこなしていた入江と入江の間の坂道が、非常に堪えた。スピードは出ないがそれでも着実に前に進む。約50分して、桂浜に辿り着く。
時刻は12時30分頃、浜辺からはバーべキューをしているのであろう香ばしい匂いが漂ってきた。桂浜の傍のちょっとした商店・民家が並んでいる通りに、イチロウ推奨の小さな食堂があった。
しまった!その食堂の名前もチエックせず写真も撮り忘れたw!カウンター8-10席と4人掛けテーブルが3つくらいの間口の細長いお店で、日替わり定食、お寿司、丼物を主なメニューに用意しているようであった。そこそこお客が入っていて、地元のヒト・如何にも里帰りした雰囲気のヒトたちが利用しているようであった。
二人して日替わり定食を注文、野菜と白身の天麩羅、卵焼きとウインナーが盛られた皿、タコと豆腐、筍の炊き合わせの鉢、味噌汁、漬け物、ごはんが運ばれてきた。750円也。値段と内容に納得、食べ終わって「刺身定食 1250円」という札に気が付いて、ちょっとした後悔も生じたが、田舎浜辺の食堂できちんとしたものが食べられたことや店の雰囲気に大満足。今まで何度もこの辺りには来ていたのにちっとも気が付かなかった。イチロウの嗅覚って本当に鋭く、こういう良い店を見つけるのは学生時代から得意としていたな。良く、イチロウが独りで“徘徊”した際に見つけた食堂に後から連れて行って貰ったものだ。どのお店も旨かったものだw。
その浜辺の食堂で日替わり定食を平らげた後、暫く休ませて貰った。この浜辺の食堂で昼飯を食べて、この度の酷暑の中のバイクツーリングはその目的を果たした。35℃を超える暑さの中でどうなることだろうか?と多少の心配もあったけれど、やはりやって来て良かった。十二分に夏の海辺の雰囲気を堪能出来た。また来年の夏もバイクでやってくるだろうな。
30分程度休ませて貰って、午後1時過ぎにその店を離れた。正午を過ぎて益々陽射しは強くなり気温も更に上がったようであった。路面から上がってくる湿度たっぷりの熱気が復路の我々を襲う事になり、ボクはゴール間際で軽い熱中症症状を自覚することになるのだけれど、書く方も読まされる方もあんまり楽しい話になりそうにないので、この辺りあっさりと割愛。
午後2時30分頃ゴールに辿り着き、その場にへたり込んで苦楽を共にした愛車を記念に写真に治めた。シャワーを浴び一息ついたところで、職場の居室に入ると、イチロウがクーラーを付けて涼んでいる。復路の最終盤では、イチロウに引き離され姿かたちが見えなくなっていたので、イチロウはそのまま自宅まで更に20数キロの途を帰ってしまったのだと思い込んでいたのだが、流石のイチロウも午後から強い陽射しと路面から上がってくる熱気に体力を奪われてそのまま自宅まで更にペダルを漕ぎ続ける気には馴れなかったらしい。
「なんだそうだったのか。あのまま帰ったかと思っていたw。変態野郎だと思ってたのだが….。」と茶化すと、奴も笑っている。
「じゃあ」という事で、イチロウとイチロウの愛車を回収して“我がチームカー”で引き上げることとした。
イチロウ、途中で買った白くまアイスを食べながら、「このクルマ、クーラーが効いて楽チンだようw」と子供っぽく喜んでいる。奴にとって“クーラーが効くクルマ”ということについても書き記さねばならないことがあるのだが、それに触れるとこの冗長な駄文が更に長くなってしまうので、その話はまた何れの機会に書くことにしようと思う。
さて冒頭に書いた何故イチロウがこの度ボクをバイクツーリングに誘う事になったのかについて一言付記しておかねばならない。帰り道の道すがら雑談の中で奴が云うには、彼の愛娘さんが、夏休みの御稽古ごと合宿でこの数日不在とのことだったらしい。それで遊び相手としてこのボクに白羽の矢が立ったという事なのだが、奴め、何時もこのオイラに「徳を積んでいるか?」と聴いてくるくせに、こういう時くらい自分がちゃんと「徳を積む」べきではなかったのかという疑問が湧いてくる。喉まで出かかった素朴な疑問であったのだが、イチロウの無邪気で満足そうに笑っている笑顔を横目で見ていたら、「まあ良いか」と思われ、その疑問は宙に浮いたままとなった。
(おしまい)