1.Classic English and Scottish Ballads from Smithsonian Folkways/ from
The Francis James Child Collection
Francis James
Child(1825~1895)は、文献学者でハバード大学の教授だったヒト。19世紀後半(1857~1858)にイングランド・スコットランドに古くから伝わる(大体16世紀から18世紀にかけて生まれたものが多いという)バラッド(民話・叙事詩)、伝承歌を収集・整理し305編にまとめた。その後、時代は下って1940年代以降、様々なフォーク系アーチストがチャイルド・コレクションを取り上げて演奏録音しているようである。19世紀より、民俗学が隆盛したのだろうと思うが、チャイルドは、日本でいうところの柳田國男みたいなヒトだったのだろうと勝手思っている。このアルバムに収められている演奏は1950・60年代を主に、2000年代まで様々な年代にレコーディングされたものであるが、哀調を帯びた旋律が繰り返されるなどどこか郷愁を誘うメロディが多い。主にブリテン諸島からの移住者がアパラチア山系の入植地で、こんな音楽を奏で苦労の多い日々を過ごしながらも自らを癒していたのだろうかと想像すると何だか愛おしくなってしまう。
Gospelとは、good spell = good news であり日本語でいうところの「福音」なのだそうな。その音楽の源を紐解けば、アフリカから奴隷として強制的に連れて来られたアフリカ系アメリカ人の苦難な歴史を背景にしているのだけれど、その人々をプランテーション主がキリスト教(主にプロテスタントのメソジスト派やバプティスト派)に改宗させる過程があった。一方で18世紀前後に米国内において信仰復興運動があり、主にキャンプミーティング(野外集会)において、説教する者とその説教を聴いて、祈ったり、叫んだり、慈悲を乞う者がいた。そうした宗教的情熱が、即興の歌に転化し、身振りを伴い始め、その場に居た者たちの興奮の渦となった。Call and response, シンコペーション、唱和などの音楽的特徴は、アフリカ系アメリカ人の生み出した音楽的特徴なのだが、ヨーロッパ系アメリカ人がもたらした讃美歌の影響を受けつつ、イエスキリストを讃える音楽としてのgospelは、「希望の音楽」でもあるらしい。この音源では、録音年代は新旧混じっていて、より原初的なもの、黒人スピリチュアル音楽的なもの、現代でも我々が時々聴くことが出来るようなアンプリファイドされたものまで聴けて、多少なりとも民族音楽に興味のある私などは大変興味深かった。民衆への布教活動・その心を掴む手段として音楽というものが大変重要な要素なのではないかと、ふと仏教徒(浄土真宗)に属する私などは思ってしまった。蛇足として述べるならば、浄土真宗のお経(仏説阿弥陀経、正信偈など)を聴いていると、Gospelとはずいぶん違うけれども、その節回しや、必ず「南無阿弥陀仏」と唱和するところなどは音楽的だなあと以前からずっと思っていた。
6.Classic Delta and Deep South Blues from
Smithsonian Folkways
どうも私には、ブルーズのなかではデルタ・ブルーズ/ ディープサウスブルーズと呼ばれるものが肌に合うらしい。アンプリファイドがなされていない楽器で、歌詞の内容はべつにしても、どこか洗練されていない素朴な雰囲気が漂うのは土地柄ゆえなのかもしれない(ただし、当時の彼の地でアフリカ系アメリカ人の置かれた立場は、差別・貧困・暴力など過酷としか表現しようのないものだけれど)。彼らの演奏にはなにか不思議と心に直接響いてくるものがある。Son House、Bukka White、Big Joe Williams 等々、まだまだ聴いてみたいレジェンドがいる。都会のブルーズは遠慮して、折に触れて彼らの音源を見つけ出して聴いて行こうかなと思っている。
このアルバムの後半に「You must unload」「I’ll be rested when the roll is called」の古いゴスペル調、「habor of love」「Jesus and Woody」と穏やかなスローナンバーが続く時間的空間があって、このあたりを聴いていると次第に心が穏やかになり、色々な日常の疲れが癒されるようだった。
ボクの芋づる式音楽探索は、前回の最後に述べたように「Without Her」を作曲したHarry Nilssonにやはり向かった。予備学習にYou
Tubeで彼の歌うWithout Herを見つけ試聴して、フムフムと了解し、ネット販売で「Harry Nilsson/
Original Album Collection」なるCD5枚ボックスセットをゲットした。
1)Aerial Ballet (1968)
2)Harry (1969)
3)Nilsson Schmilsson (1971)
4)Son of Schmilsson (1972)
5)A Little Touch of Schmilsson In
The Night (1973)
シンガーとしても力量は大したもので、ノリの良い曲では、ジョン・レノン張りにシャウトし、フォーク・カントリー調では明るく爽やかに、スタンダードナンバーでは、哀愁を湛えた甘くも優しい歌声を示し、その音色は変幻自在である。特にスタンダード曲を集めたアルバム「A Little Touch of Schmilsson In The Night 」(1973)では、彼のシンガーとしての力量を余すところなく表現されていて、ボクとしては完全に魅了されてしまった。恐らくこのアルバムはボクにとって愛聴盤の1枚となり、今後も繰り返し聴いて行くことになるだろうと思われた。